
世の中に早く続きが読みたい少女漫画はたくさんあるが、美内すずえ氏による『ガラスの仮面』はその代表格ではないだろうか。本作は演劇の天才少女である北島マヤが、ライバルとの戦いや数々の試練を乗り越え、演劇の世界で頂点を目指す物語である。
本作が絶大な支持を得ている理由はたくさんあるが、主人公のマヤが絶体絶命のピンチを乗り越えてきたシーンも見どころだった。舞台上での大ピンチに読者はハラハラしたが、マヤはその演劇の天才を活かし、いかなるピンチも乗り越えてきたのだ。今回はそんなマヤが乗り越えた窮地のシーンを振り返ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■出演者が誰もいない…!たった1人で舞台を演じた『ジーナと5つの青いつぼ』
『ジーナと5つの青いつぼ』は 、全日本演劇コンクールに向け、マヤが主役を練習していた舞台である。しかし劇団オンディーヌ小野寺理事の策略により、マヤ以外の出演者が舞台時間に到着できないトラブルが起きてしまう。
もはや舞台を棄権するしかない状況のなか、マヤはたった一人で舞台に立つ決断をする。何の打ち合わせもない状況でありながら、舞台装置や照明を巧みに活用し、マヤは一人で多様なシーンを演じ分けたのだ。
登場人物が複数現れる場面では、師匠・月影千草が“手”のみの演出で補助し、観客の想像力を刺激する演出を実現させた。こうしてマヤは、完全な一人芝居で『ジーナと5つの青いつぼ』を見事に完遂したのである。
それにしても出演者全員が来れなくなるという大ピンチに対し、急遽一人芝居を演じたうえに観客を魅了したマヤ。たった1人で1時間45分もの舞台を演じきり、その結果一般投票で最高得票を獲得したのだから、まさに「おそろしい子!」である。
■40度の高熱を逆手にとった『若草物語』
マヤは自分の体がどのような状況であっても、絶対に舞台に立つ。それが印象的だったのが、劇団つきかげ創立初の公演となった『若草物語』でのシーンだ。
当時のマヤは、師匠である千草のもと厳しい指導を受けながらベス役を練習していたが、千草はその演技に納得していなかった。そのためマヤは病気のベスになりきるため、一晩中雨に打たれて風邪を引き、40度もの高熱を出しながらも舞台に立つのだ。
熱でぼうっとしてしまうマヤに対し、バケツの水を全身に浴びせて激を飛ばす千草。その後、濡れたまま舞台に立ったマヤは“水遊びして濡れた”とアドリブを入れ、その場をやり過ごす。さらに、ベスが猩紅熱に苦しむ場面では、自身の高熱を逆手に取り、リアルな演技を披露。
瀕死の状態のベスになりきったマヤはベッドから半身をさらし、青白い顔のまま“野ばら”を口ずさむ。その様子はあまりにも生々しく、観客席は水を打ったように静まり返るのであった。
たとえ40度の熱があっても、それを演技の糧にしてしまうのがマヤなのだ。