■テクニック、スピードともに宮田が圧倒的に上

 宮田のボクシングセンスは作中でも随一のものである。千堂と比べると、テクニック、スピードともに宮田が圧倒的に上だ。また特に減量がない状態では、体格でも宮田に分がある。では、減量した状態ではどうなのか。

 フェザー級ではパワーの面で千堂に対して圧倒的に劣る宮田。どんなにダメージを積み重ねても、一撃で試合をひっくり返されてしまうことも十分に考えられる。しかし、宮田には一発逆転可能なカウンターが複数存在する。

 全体重を叩きつける「ジョルトのカウンター」、相手の死角からカウンターを打つ「見えないパンチ」、体力が尽きた状態でも意識を刈り取る「コークスクリュー・ブローのカウンター」の3つは、千堂相手でもKOが可能そうなカウンターだ。

 沢村竜平は「コーク・スクリュー・ブローのカウンター」が完成すれば、化け物のようなスタミナとタフネスを持つ一歩でも勝てないと断言している。一歩よりも粗削りなファイトスタイルの千堂であれば、こうしたカウンターも当たりやすくなるはずだ。千堂の野生の勘とパンチの破壊力を宮田が上手く攻略できれば、宮田の勝ちは揺るがないものになるだろう。

■千堂vs宮田のスパーリングから考察

 ここまで千堂、宮田両者の武器と弱点を見てきた。では、実際のスパーリングでは、どんな結果だったのかを見ていこう。2人のスパーリングは原作コミックス85巻で実現している。千堂は全国の猛者をまとめた「どつくリスト」を作って各地のボクサーを倒して回っており、その中に「宮田一郎」の名があったのだ。

 東洋太平洋タイトルの防衛戦前だった宮田は、千堂の挑発に乗ってスパーリングを受けることになる。一歩のライバル同士の夢のスパーリングだが、宮田にとって千堂のボクシングスタイルは、多くの穴がある雑なものに見えるようだ。

 実際、減量前で体力的にも心配がない宮田は余裕を崩さず、千堂とのスパーリングを有利に進める。圧倒的なスピードと左ジャブのうまさで、千堂はボコボコにされてしまっていた。スマッシュに対してカウンターを合わせ、とどめも刺さないという余裕まである。一歩と板垣が「こんなに差があったのか!?」と驚くほど実力差があるように見えた。

 しかし、宮田のリズムを掴んだ千堂は野生の読みと天性の当て勘で、宮田を追い詰め始める。カウンターに対してもしたたかな戦術を見せ、カウンターを誘い出してコーナーまで一気に追い詰めるという逆襲を披露。互いにダウンを奪う寸前まで追い詰めるという、超ハイレベルなスパーリングを見せてくれた。

 その後はスパーリングパートナーとして宮田と幾度となく戦ったようだが、減量が進むにつれて弱っていく姿を前に殴る意欲が失せたと千堂は語っていた。やはり、減量有りの状態では、宮田が弱体化していることは見逃せない。 

 その後、千堂の世界戦が決まると、リカルド・マルチネス対策として宮田がスパーリングパートナーとなり、再び2人は拳を合わせている。2人はもはや世界チャンピオンの最有力候補といってもいい実力者だが、宮田によると彼はほとんど千堂からパンチをもらっていない状態らしい。

 やはり試合の集中力なしでは、宮田の方が実力とテクニックの両面で上のようだ。千堂の試合時の集中力は凄まじい。宮田の減量により研ぎ澄まされた集中力と千堂の野生の闘争本能からくる集中力のどちらが上回るかが、大きなカギを握ることは間違いない。

 

 ここまで見てきたように、減量なしでは圧倒的に宮田、フェザー級の体重でも一発逆転可能なカウンターを持っている宮田に分があるように思える。しかし、これは現時点での話だ。千堂は世界戦を控えており、相手は無敗の世界王者リカルド・マルチネスである。

 彼との試合次第で、千堂の急成長も十分に考えられるだろう。フェザー級のリングの上では、千堂の野生が宮田を上回るかもしれないという期待もある。筆者は宮田有利と予想するが、どっちが勝つかだけで何時間でも話せてしまうほど、この2人は魅力的なキャラクターだ。

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