金獅子のシキにゼファー、テゾーロにバレット…劇場版『ONE PIECE』に登場した「伝説のジジイ」たちは結局何がしたかったのか?の画像
DVD『ONE PIECE FILM STRONG WORLD 映画連動特別篇 金獅子の野望』(エイベックス・ピクチャーズ)©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

 2025年4月現在、劇場版『ONE PIECE』に関する新たな情報はいっさい公開されておらず、今年も新作を視聴できる可能性は非常に低いと言わざるを得ない。

 2022年に公開された『ONE PIECE FILM RED』では、原作者の尾田栄一郎氏が「伝説のジジイ描くのもう疲れたんだよ!笑」とコメントしており、劇場版史上初となる女性のボスキャラが登場した。それ以前は、尾田氏さんの言う“伝説のジジイ”が4作品連続で登場し、劇中で世界を揺るがすほどの猛威を振るっていたのである。

 では、そんな“伝説のジジイ”たちはそれだけの歳を重ねた末にどんな野心を抱き、何を目的としていたのだろうか? 劇場版新作の発表がないのであれば過去の作品に想いを馳せてみよう……ということで、今回は“伝説のジジイ”たちについてじっくりと振り返っていきたいと思う。

 

※本記事には作品の核心部分の内容を含みます

 

■激動の時代に思いを馳せ、すべての支配を望んだ男「金獅子のシキ」

 『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』(2009年)に登場した“金獅子のシキ”が目指したのは、強者が支配する時代の再現だ。

 かつてゴール・D・ロジャーや白ひげたちと肩を並べた伝説の海賊であるシキは、弱者を屈服させ支配することを好んでいたため、誰よりも自由を好むロジャーとは宿敵であり水と油の関係だった。

 海軍に捉えられたロジャーに自らの手で引導を渡そうと海軍本部に乗り込むも、センゴクやモンキー・D・ガープなどの海軍の猛者に阻まれ、大監獄インペルダウンに収容されてしまう。

 そしてロジャーの公開処刑がおこなわれ、幕を開けた大海賊時代。さまざまな海賊たちが台頭する反面、海に秩序が敷かれ、時代に大きな変化が生じてしまう。

 かつての時代を取り戻すべくインペルダウンから脱獄したシキは、“フワフワの実”の能力を駆使して天空に潜伏しつつ、生物を凶暴化させる研究をおこないながら20年もの時間を戦力の増強に注ぐのである。

 20年後、世界を支配するため本格的に動き出したシキは、最初の目的地をロジャーの故郷である“東の海(イーストブルー)”に設定。凶暴化させた生物を送り込み、多くの土地を制圧していった。

 そんな計画のなか麦わらの一味と出会い、シキがナミの卓越した航海術を見込んで拉致したことをきっかけに、モンキー・D・ルフィたちと激戦を繰り広げることとなる。

 誰よりも支配を望んだシキは自由を望むルフィを屈服させることはできず、奇しくもロジャーと同じ“東の海”出身の男にその野望を阻まれる形となったのである。ルフィに倒される寸前ロジャーの名前を叫んだその姿からは、かつて過ごした栄光の時代への回顧と、その終焉を悟るかのような悲哀を感じさせた。

■正義に裏切られた男による最後の授業「ゼファー」

 『ONE PIECE FILM Z』(2012年)で描かれた元海軍大将・ゼファー(ゼット)の野望は、海賊への強い復讐心をきっかけとした、海軍の掲げる正義への抵抗であった。

 ゼファーは海軍大将として妻子とともに順風満帆な日々を過ごしていたが、ある日突然海賊の手によって愛する家族を失い、大将を辞任する。

 それでも自身の信じる正義を全うするため、失意の底から這い上がったゼファーは若い海兵の育成に精を出し、今の時代を守る名だたる将兵を育て上げた。だが、さらなる悲劇が降りかかる。

 なんとゼファーが率いた新兵たちの訓練艦が海賊の襲撃を受け、多大な犠牲者を出してしまうのだ。そして、のちにその海賊が王下七武海として世界政府に迎えられたことで海軍の正義に不満を覚えて除隊。志を共にする数名の海兵を引き連れて「NEO海軍」を組織し、新世界にいる全海賊を抹殺するためにとある計画を実行する。

 それは、古代兵器にも匹敵する海軍の「ダイナ岩」を奪取して新世界の3つの巨大なマグマ溜まり「エンドポイント」の破壊をし、新世界をまるごと焼き尽くしてしまおうという、恐ろしい計画だった。

 その過程で麦わらの一味と出会い、“モドモドの実”の呪いをかけたことやルフィの麦わら帽子を奪ったことで、彼らの執拗な追撃を受けることになる。これが結果的にゼファーの計画の障害となった。

 最終的にルフィとの戦いに敗れたゼファーは麦わらの一味を逃がし、自身の始めた行動に落とし前をつけるべく海軍大将・黄猿率いる軍隊と1人で戦い、散っていくのであった。

 海軍という巨大な組織の掲げる正義が、自身の正義と乖離していたことから独自の組織でやりたいように戦ったゼファー。決して邪悪な心を持っていたわけではなく、最後には「気が済んだ」と満足気な様子を見せ、次代を生きるルフィたちの信念を尊重した。

 新世界ごと焼き尽くす計画は海賊への強い復讐心がきっかけとなったのはもちろんだが、歪んだ正義で自身を絶望させた海軍や世界政府に対する、ゼファーの存在証明だったのではないだろうか。

  1. 1
  2. 2
  3. 3