名シーン揃い! 『はじめの一歩』鴨川ジムボクサーたちの「心震わす負け試合」木村達也に青木勝、板垣学も…の画像
少年マガジンKC『はじめの一歩』第138巻(講談社)

 プロボクシング漫画のレジェンド『はじめの一歩』(森川ジョージ氏)では、勝利の喜びと同じかそれ以上に敗北の残酷さが濃密に描かれている。

 試合の敗者にスポットライトが当てられることも多く、彼らが悔しさを滲ませるシーンこそ「名シーン」だと評価する声があるほど感動的だ。

 そこで今回は、主人公・幕之内一歩が所属する鴨川ジムのメンバーが苦汁を味わった「負け試合」を紹介しよう。

 

※本記事には作品の内容を含みます

 

■ボクサー人生を賭した試合は名台詞も多い…木村達也VS間柴了

 一歩の頼れる先輩のひとり、木村達也の負け試合といえば、やはりジュニアライト級のチャンピオンベルトを掛けた間柴了とのタイトルマッチだろう。

 ボクサー人生5年目にして初めてタイトルマッチのチャンスを手にした木村。しかし、その相手は世界挑戦も視野に入れるスーパーチャンプ・“死神”間柴了だった。

 下馬評は圧倒的に間柴が有利の絶望的な戦いだったが、それでも木村は諦めることなく試合に臨む。猛特訓の末に編み出した必殺ブロー「ドラゴン・フィッシュブロー」や鴨川ジムで培った諦めない気持ちを武器に、木村は間柴を極限まで追い詰める。

 最後は立ったまま意識を失った木村が敗北したが、その奮闘は読者の胸を打った。連載35年を超える本作において、この試合は「ベストバウト」の呼び声も高い。

 木村VS間柴戦を印象深いものにしているのは、ボクサー人生を掛けた木村の名台詞の数々が大きい。

 まず、試合前には「負けたら引退します」と悲壮な覚悟を見せている。試合中には間柴が発した「3分間よく粘ったじゃねぇか」との言葉に返した「たったの3分なんぞ へでもねえよ なんたって こちとら——5年も粘ってきたんだ!」も、木村がこの試合に掛けた気概が伝わってくるようだ。

 筆者が個人的に好きなのが、試合後に木村が涙とともにつぶやいたこのセリフだ。

 「たった3センチの根性が…オレには 足りなかった」

 最後の攻防において、木村はリーチの差で間柴のカウンターを喰らってしまった。その差はわずか3センチ。たったそれだけ腕を伸ばす根性がなかった……と木村は嘆くが、読者は彼がどれだけ努力したかをよく知っている。

 それでも届かないことがある非情さを伝えるこのセリフには、負け試合の悲しい魅力が詰まっている。

■一歩にプロの厳しさを教えた…青木勝のA級トーナメント準決勝

 鴨川ジムを盛り上げるムードメーカー、青木勝にも印象的な負け試合がいくつかある。今回は、一歩に身内の負けを見せることになったA級トーナメント準決勝を取り上げよう。

 一歩、木村とともにA級トーナメントで準決勝まで勝ち上がった青木。あと2回勝てばタイトルマッチに挑戦できる大事な前哨戦で、「地力が違う相手」「6ー4で不利」と、鷹村をして言わしめる相手と当たってしまう。

 試合では得意の変則戦法でかく乱を狙う青木だが、相手に研究されており、ここぞの場面ではカエルパンチにカウンターを合わされて苦戦を強いられる。それでもカエルパンチを囮に使う奇策で五分の戦いに持ち込み、試合は最終ラウンドへ。

 悲願のタイトルマッチを目指して拳を振るう青木だったが、相手の右フックにほんの数センチだけアゴ先をかすめられ、無念のKO負けを喫する。

 この日は木村も負けており、一歩は2度も先輩の負けを目の当たりにした。どんな言葉をかければいいかうろたえる一歩を前に、平静を装う青木がまた涙を誘う。快進撃を続けていた一歩にプロの厳しさを伝えた、大事な負け試合といえるだろう。

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