
青山剛昌氏による『名探偵コナン』(小学館)は、30年以上も連載している日本を代表するミステリー漫画だ。ここまで長期に連載しているのもさまざまな魅力があるからだろう。
そんな本作では数々の伏線が張られており、その秀逸な伏線回収はたびたび話題になっている。特に黒ずくめの組織に関係しているものが多く、中でも有名なのが組織のボスの存在だろう。1999年発売のコミックス24巻で”あの方”という形で存在が匂わされたかと思うと、それから正体が明かされたのは2018年発売のコミック95巻で、20年近くにわたる伏線回収となった。
そんな大がかりな伏線が『名探偵コナン』には数多くあり、時間をかけて回収されることで「あのときの描写や言動はそういう意味だったの?」と驚いてしまう。今回はそんなすごい伏線回収について振り返っていこう。
※本記事には作品の内容を含みます
■ベルモットが変装していた人物
黒ずくめの組織でも特に重要な立ち位置にあるとされているのがベルモットだ。黒ずくめの組織のボスである“あの方”こと烏丸蓮耶のお気に入りで、いまだ謎が多く回収されていない伏線もいくつかある。
そんなベルモット関連の驚きの伏線回収が、新出智明の変装である。新出は帝丹高校の校医なのだが、いつの間にかベルモットが彼に成り代わっていた。読者がそれにすぐ気付くのは難しい……。江戸川コナンですら新出がベルモットだったと気付くにはかなり時間がかかった。
ベルモットが新出に変装していたのは、シェリー(灰原哀)について調べるためである。当初は成り代わりのために殺害しようとしていたが、新出はFBIによって事故死に見せかけた上で逃亡。ベルモットとしても好都合だったため、予定通り彼になりすまして帝丹高校に潜入していた。
ベルモットと新出の入れ替わりについての伏線は、灰原の「灰原センサー」で張られた。灰原は黒ずくめの組織の人間が近くにいると、気配だけで察してしまうという能力を持っている。そんな彼女は同じバスに新出、ジョディ・スターリング、赤井秀一が乗り込んだ時、危険信号を感じていた(29巻収録「謎めいた乗客」)。
この描写から、3人の中に黒ずくめの組織の人間が紛れ込んでいるのは明らかだった。しかし、当初はジョディがかなり怪しく描かれていたので、新出がベルモットだったのは予想外だった。
「謎めいた乗客」から42巻収録「黒の組織と真っ向勝負 満月の夜の二元ミステリー」で正体が明かされるまで、約3年越しの伏線回収となる。他にも伏線として、新出の眼鏡の鼻当て部分のフレームが2本(本物)だったのが1本(ベルモット)に変化しているというものもあった。その違いに気付いて別人と判断するのは難しすぎる……。
■安室透の正体
次は安室透に関係する伏線と回収を紹介したい。75巻で初登場した安室は、毛利小五郎を「先生」と慕って弟子入りした私立探偵で、優しくて爽やか系のお兄さんといった印象だった。しかし……実は黒ずくめの組織の一員で、バーボンというコードネームまで持っていた。
まず読者はここに驚かされたことだろう。そこからは、バーボンはベルモットと組んで行動する描写が多く、ジンやウォッカとはあまり一緒にいなかった。
しかし、バーボンのさらなる正体は公安に所属する警部で、捜査のために組織に潜入していたことが明らかになった。
だが、安室が実は公安警察かもしれないという伏線は、登場してからすぐに張られていたようにも見える。
それが亡くなった伊達航刑事に対して見せた反応だ。76~77巻収録の「命を賭けた恋愛中継」のラストにて、高木渉刑事と佐藤美和子刑事が先輩である伊達刑事の墓参りをしに行った際、安室はこっそり影で見守っていた。そして、スマホに入っていた「お前どこで何やってんだ? たまには連絡しろよな! 伊達」というメールを削除しながら、「静かに… 瞑れ… 友よ…」と心の中で呟いている。
明らかに伊達の関係者であることを匂わせていたので、安室が何者なのか気になってしまった。そこから後に公安警察の降谷零だと判明したときには、なるほどと感心したものだ。
登場したばかりの頃からいかにも何かありそうな感じに見えたが、まさか黒ずくめの組織と公安警察、私立探偵兼ポアロの店員という3つの顔を使い分けているとは思わなかった。