■昭和オタクは最終話といかに向き合ったのか

 感動を伝えたくても伝えられない――。この悶々とした想いをどのように発散したらよいのか分からなかった私は、家に帰ってから、我慢しきれずに録音したアニメの音声テープを何度も聴き返します。

 お気に入りのシーンは、「早戻し」で微妙なタイミングを狙えるほど、鬼再生して反芻。脳内には『ガンダム』の最終回のシーンが広がり、しまいには自分なりの「IF妄想」がはじまる始末。

 たとえば「自分がララァだったら、死なずにシャアを助けられただろう」「アムロ側に寝返ってニュータイプ能力で周囲からチヤホヤされただろう」などと考え出すと止まりません。当時の妄想をこうして思い出すと、羞恥で脳みそがコゲつきそうになりますが……。

 ただ、それでも、最終回の興奮と悶々とした想いは消えません。そこで次に私は、最終回の録音テープを聴きながら、キャラクターのセリフをノートに書き出す作業に没頭します。

 「発言の意図が知りたい」「この素晴らしさを誰かと分かち合いたい」「心を落ち着かせたい」……こうした思いから、延々とセリフを書き出す作業は、今思えば“写経”にも似ています。

 ちなみに『ガンダム』には、小学生の私には難しい言葉もたくさん使われていて、シャアのセリフ「私の手向けだ」の“手向け”など、意味どころか漢字すら分かりませんでした。

 なかには録音したテープで、何を言っているのか聞き取れない場面もありましたが、この一連の作業は本当に楽しかった。キャラクターのセリフを書き出すことで、頭のなかで状況や意味などを咀嚼することができて、何度も場面が再現され、私自身がガンダムの世界に入り込んだ気になれました。

 結局、寝る時間になっても興奮は収まりません。なかなか寝つけず、妹と同室だった部屋の明かりが消されたあとも、親にバレないように布団のなかに懐中電灯を持ち込み、セリフを書き出したノートを見返したり、アニメ雑誌を読み直したりしました。

 月曜日に学校行ったら、Yちゃんにガンダムの最終回の話をたくさんしよう。シャアが死んだのは残念だったけど最期はカッコ良かったし、ガルマ様のことに触れてくれたのも嬉しかったよ。あと、ニュータイプがよく分からないから教えてと尋ねよう。

 そんな期待にわくわくしながら、布団の中の私は、何度も何度も、懐中電灯に照らされたノートやアニメ雑誌を飽きることなく眺めるのでした。

 

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