リアタイ世代が迎えた『機動戦士ガンダム』最終回の放送日…昭和のアニメファンは「衝撃のラスト」をどう受けとめたのか【昭和オタクは燃え尽きない】の画像
DVD「機動戦士ガンダム 第11巻(最終巻)」(バンダイナムコフィルムワークス) (C)創通・サンライズ

 ――1980年1月26日。この日は『機動戦士ガンダム』の最終話、「脱出」の放送日でした。

 太陽がストンと落ちる冬の夕方。自転車の前かごに父親のラジカセを乗せた私は、お小遣いで買ったお手頃価格の和菓子を携え、近所のおばあちゃんの家まで“ガンダムを録音する”ために向かいました。

 到着するなり、おばあちゃんに和菓子を手渡して二階に上がると、無人の部屋の電灯とテレビをつけ、ラジカセのコンセントをつなぎ、放送開始まで正座待機。

 雑音が入らない「録音ケーブル」を使った録音方法など知らなかった当時の私にとって、母親の声や生活音とは無縁のおばあちゃんの家はまさに天国。たとえ寒空のなか30分近く自転車をこぐはめになっても、ラジカセによる“ダイレクト録音”に最適な環境だったのです。

 今回は100円の激安カセットテープではなく、奮発してSONYの緑色をしたカセットテープ「BHF60(オレンジのCHFよりお高め)」をセット。最終回に臨む覚悟と、何度も聴き返すことを想定して、再生時に起きる“テープ切れ”のリスクを少しでも減らすために、できるかぎり手を尽くしました。

 さらに、何度か経験した「主題歌の最初の部分が録音できていない!」というトラブルを経て、カセットテープの穴に指を突っ込み、くるくるとテープの余白部分を巻いて(進めて)おくことで、録音ボタンを押した瞬間から、即録音が始まる状態でスタンバイ。これも心ゆくまでガンダムの音声を楽しむために編み出した、私なりの「アニメ音声録音」の必殺技でもありました。

 むかし、叔父さんが暮らしていた納戸代わりの無人の部屋は、広いおばあちゃん家の中にある“開かずの間”のひとつ。部屋に残された小さなブラウン管のテレビを、神妙な面持ちで凝視する孫娘の奇怪な姿を祖父母に見られる心配はほぼありません。

 つまり、大声さえ出さなければ、興奮のあまり腕をブンブンと振り回したり、感極まって泣いたりしても安心というわけです。最終回を観るにはこのうえない環境でした。

 思い返せば、初視聴となった第34話で“ガンダム沼”に足を突っ込み、作中の人間関係や組織構成などをアニメ雑誌でせっせと学んだ2か月間。それは、私が最初に抱いていた「狡猾な悪役美形」なシャア・アズナブルのイメージが大きく変わるのに十分な時間でもありました。

■ついに始まったガンダム最終話

 ――17時30分。

 放送開始時間と同時にブラウン管テレビに映し出されたのは、いつもと何も変わらない『機動戦士ガンダム』のオープニング映像。「きっと着色ミスだな~?」と思っていた、オープニングでしか会えない青いパイロットスーツ姿のアムロとも今日でお別れです。

 本編が始まり、第43話のサブタイトル「脱出」が厳かに読み上げられたことで、私の中にも改めて「最終回」という妙な緊張感が生まれます。

 そして、いきなりアムロのガンダムとシャアのジオングの戦闘シーンが始まりました。

 二人は尋常ではない速さでモビルスーツを操り、互いに会話を交わすこともなく、独り言をつぶやきながら戦闘を繰り広げます。ホワイトベースのクルーたちの表情もいつになく険しく、これまで見てきたロボットアニメとは明らかに異質な緊迫感が漂っていました。

 初視聴の34話の頃は、まだ格上の存在だと思っていたシャアがアムロに圧倒され、明確に焦りの表情を見せていました。当時まだ小学生だった私は、「ニュータイプ」というだけでたいした訓練も努力もなく、シャアをあそこまで追い詰めたアムロのことを、「ズルい」とすら感じていました。

 でも、主役機であるガンダムが腕を失い、頭が吹っ飛んだシーンは、あまりの衝撃に「わっ!」と声が出そうになります。一方、頭部だけになったジオングで逃げるシャアを見て、『ヤッターマン』の悪役3人の姿が一瞬よぎりましたが、それでも緊張感は途切れず、固唾をのみながら見守っていました。

 そして、シャアとアムロの生身での対決シーン。ニュータイプとしては勝てないと悟ったシャアが、フィジカル勝負を持ちかける場面です。前回の次回予告で見てから、1週間ずっと楽しみにしていました。

 私にとっては「悪役キャラ」だったシャアですが、そのなりふり構わない姿勢を見て、私はシャアに勝ってほしいと思いました。そのため、「ヘルメットが無ければ即死だった」というシャアのセリフを聞いたとき、「フェンシングでもアムロに負けたのか」と解釈し、少しだけガッカリしたわけです。

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