『パラキス』徳森浩行に『天ない』中川ケン、『NANA』高倉京助も…「矢沢あい作品」大人になったら分かる「本当にいい男」の画像
コンプリートDVD-BOX『NANA-ナナ-』第1巻(バップ)(C)矢沢漫画制作所/集英社・VAP・マッドハウス・NTV

 1985年に『りぼんオリジナル』(集英社)でデビューをして以降、数々の名作を生み出してきた少女漫画界のレジェンド的存在である矢沢あいさん。

 「矢沢あい作品」の良さは語るに尽くせないが、魅力的なキャラクターが多く登場することもそのひとつだろう。おしゃれで可愛い女性、夢に突き進むカッコいい女性、恋愛に一生懸命な女性……など、読者がついつい共感してしまう印象的な女性キャラたち。また男性キャラも優男やロックスター、学級の問題児など、さまざまなバリエーションが揃っている。

 作品を読んでいた当時はヒロインと恋に落ちるキラキラしたイケメンに惹かれがちだった筆者だが、月日が経った今、読み返してみるとまったく違うキャラに惹かれてしまうから不思議だ。そこで大人になってあらためて魅力が分かった、矢沢あい作品の「本当にいい男」を振り返ってみたい。

 

※本記事には各作品の内容を含みます

 

■相手を尊重して見守る絶妙な距離感『Paradise Kiss』徳森浩行

 服飾専門学校に通う生徒を中心に描かれた『Paradise Kiss』は、ファッション誌『Zipper』(祥伝社)で1999年から連載された。

 ファッション誌の漫画作品とあって奇抜な装いや独特なセンスを持ったキャラクターが多く、非日常的な面白さもある本作。主軸は進学校に通う主人公・早坂紫がデザイナーの卵である小泉譲二(ジョージ)と恋に落ち、自身の将来に悩みながらもモデルとしての階段を駆け上がっていく物語だ。

 ビジュアルも良く、ただならぬオーラを放つジョージは我が道を行くタイプで、自立した人間を好む性格だ。そのため、親の敷いたレールを歩いてきた紫とは衝突することが多かった。

 それでも惹かれ合う2人だったが、紆余曲折ののちジョージはパリに渡り、日本に残った紫はモデル業に邁進。別々の道を選び、破局を迎えてしまう。

 そんな紫が最終的に選んだのが、高校の同級生・徳森浩行だった。物語のラストでは10年後、婚約した2人の姿が描かれている。

 当初、紫の片想いの相手であった徳森。イケメンで性格も頭も良く、パーフェクトな存在だったが、破天荒なジョージと比べると真面目でどこか堅い印象だった。

 そんな徳森も、密かに紫を想っていた。ジョージに翻弄され、進学の道から外れていく彼女を心配しつつも尊重し、常に一歩下がって見守った。その後、学校のコンテストでジョージたちの仕立てたドレスを着こなし、堂々とランウェイを歩く紫に見惚れるシーンは印象的だ。

 干渉するでもなく束縛するでもない。そんな彼の絶妙な距離感は、大人になってみると良さがわかる。

 おそらく徳森はジョージがいなくなってからもモデルとして挑戦し続ける紫を応援し、見守ってきたのだろう。しかも自身もしっかりと夢を叶え、医者になっているのがすごい。

 紫が人生のパートナーとして徳森を選んだことに「よかった!」と大きく頷いたのは、筆者だけではないはずだ。

■懐の深さは作中随一『天使なんかじゃない』中川ケン

 1991年から『りぼん』(集英社)で連載が開始された『天使なんかじゃない』は、『天ない』の愛称で親しまれ、著名人にもファンを公言する人が多い人気作品だ。

 本作は高校生の主人公・冴島翠が、生徒会を中心としたメンバーと青春を謳歌するストーリーで、恋愛だけでなく友情物語としても泣ける名作として知られている。

 作中、翠はリーゼント頭の須藤晃と恋に落ち、さまざまな困難を乗り越えていくのだが、その途中、“当て馬キャラ”として登場するのが、翠の中学時代の同級生・中川ケンである。

 バンド活動に勤しむケンは明るく爽やかで好印象の人物だ。中学時代からずっと翠に片想いしており、別の高校に行ってもその想いが変わることはなかった。

 一度は晃と両想いになるも想いがすれ違ってしまった翠は、自分に想いを向けてくれたケンと付き合うことを決心する。だが、その幸せは長くは続かない。心に晃を留めたままの翠とケンの距離は縮まらず、ほどなくして破局を迎えてしまうのだ。

 その後、翠と晃は元サヤに戻る形となるため、完全な“当て馬”となったケン。だが、彼のいいところは“その後”である。

 結果的にケンの気持ちを振り回してしまった翠だが、ケンはその後も翠に対し、変わらぬ友情を向けるのだ。

 疎遠になってもおかしくないような翠の言動も寛容に受け入れ、態度を変えることなく彼女を支えるケン。懐の深さで言えば『天ない』随一だろう。

 晃のような危うさや弱さを持つ男性に惹かれる翠の気持ちも分からなくもないが、大人になってみると、ケンのように誠実で一途な優しい男がいいと思ってしまう。

 ちなみにケンはその後、『ご近所物語』で再登場。「マンボー」というバンドでボーカルを務め、ミュージシャンとして成功している様子が描かれていた。

 作中で登場する翠を想って作った曲「天使のほほ笑み」は、どんな曲だったのだろうか。歌声とともに想像してみるが、きっと温かく泣ける名曲なのだろう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3