
井上雄彦氏による『SLAM DUNK』に登場する陵南高校のキャプテン・魚住純。作中屈指の大型センターであり、ライバル校のキャラクターの中でも登場機会は多いほうだが、連載当時は『週刊少年ジャンプ』(集英社)人気キャラ投票ランキングでもとくに目立たず、どこか“不遇”な存在だった。
しかし、大人になってあらためて読み返すと見えてくるのは、才能に頼らず努力を重ね、仲間を思い、キャプテンとしてチームを支え続けた実直な姿だ。派手さこそないが、その覚悟と優しさに胸を打たれる読者も多いだろう。
今回は、そんな魚住純の魅力を名シーンとともに振り返っていきたい。
■不器用で真っ直ぐな努力型センター
陵南のキャプテン・魚住は、同じチームの天才・仙道彰とは好対照の存在だった。生まれ持ったセンスではなく、泥臭い努力と不屈の根性で自らを鍛え上げてきた、まさに“叩き上げ”の選手である。
1年生の頃は厳しい練習についていけず、「ただでかいだけ」と陰口をたたかれ、退部を口にしたこともあった。しかし、田岡監督から「お前が3年になった時 陵南初の全国大会出場」と夢を語られ、その言葉を胸に懸命に鍛錬を積む。やがて魚住は、神奈川屈指のセンターへと成長し、3年時にはチームのキャプテンを任されるまでになった。
確かに、魚住は天才肌の選手ではないだろう。フリースローは苦手で、試合ではファウルトラブルに泣かされることも多かった。湘北との練習試合では、初出場で緊張する桜木花道からボディプレスを食らって鼻血を出したり、“フンフンディフェンス”に驚かされたりと、まるで「噛ませ犬」のような扱いを受けるシーンも。それでも田岡監督の指示には忠実に応え、持ち前の体格と根気で桜木をスクリーンアウトし、きっちり完封してみせた。
決してスマートでも、華やかでもない。それでも、不器用なまでに真っすぐなバスケット人生を歩んできた魚住の姿には胸を打たれてしまう。
■派手さはないが、勝利を支える縁の下のリーダー
魚住は、才能や華やかなプレーでチームを引っ張るタイプではない。だが、神奈川県大会湘北戦で彼が口にした「オレはチームの主役じゃなくていい」という言葉には、キャプテンとしての覚悟とリーダーシップの本質が詰まっているように思う。
試合中は声を張り上げ、地道なプレーで仲間を支える魚住。インターハイ予選・神奈川県大会の湘北戦では、4ファウルの危機にありながらも驚異の集中力を見せ、ゴール下で湘北キャプテンの赤木剛憲や桜木と激しくぶつかり合う。
体を張ってボールを死守し、「こういう仕事はオレに任せろ」と仙道や福田に伝えるその姿に、キャプテンとしての責任感がにじむ。
そんな魚住の奮闘に刺激を受けたのが、いつもは飄々とした天才・仙道だった。「点を獲りにいってやる」と闘志に火を灯し、その後の爆発的なプレーにつなげた。まさに、魚住の姿勢がチームを鼓舞し、仙道の真の力を引き出したといえよう。
目立たずとも仲間を信じ、縁の下で支える覚悟。それこそが、キャプテン・魚住の真の姿だったように思う。