■特殊なオムニバスストーリー『ドラクエ4』の第3章

 シリーズにおいて、もっとも特徴的だったのは『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』で採用されたオムニバススタイルではないか。同作は全5章の章立てストーリーになっており、第1章では国に仕える戦士・ライアンが主人公。第2章はサントハイムの姫とその使い。第3章は町の武器屋のアルバイト店員・トルネコが主人公で、第4章は踊り子・マーニャと占い師・ミネアの姉妹の物語だ。

 それぞれに用意された短いストーリーをクリアする中で、世界への危機と勇者の存在が匂わされ、第5章で「導かれし者たち」として勇者と合流するという流れとなっていた。

 1章、2章、4章はオーソドックスな冒険で、ボスキャラも用意されている。倒すことで章のクリアに至るのだが、3章は章に比べてかなり特殊な展開だった。

 主人公トルネコの目的は世界一の武器商人になること。そのために自分の店を持つことを夢見ており、決して戦いに出ることが目的ではなかったのだ。旅をしていく中で出てくるモンスターたちを仕方なく倒しているという感じである。

 そういった目的のため、ボスも登場せず、ひたすらお金を貯めるというのが目的という、一風変わった、いい意味で「ドラクエらしくない」システムだった。

 序盤、いきなり驚かされるのが、「やくそう」や「どくけし」しか落とさないはずの雑魚モンスターが武器や防具を落とすこと。トルネコがモンスターを倒すのは武器や防具を手に入れるためであり、入手したそれらを売ってお金を貯め、また道中のさまざまなイベントをこなしてお金を手に入れ、自分の店を手に入れるために奔走する。

 そして夢だった自分の店を持ったら、店番は妻のネネに任せ、自分は武器や防具を仕入れに街の外に出かけ、それを店で売ってもらい、どんどんとお金を貯めていくのだ。

 最終的には伝説の武器である「てんくうのつるぎ」を求めて旅に出るというところでストーリーが終わる。

 それまでのドラクエのシステムを使いつつも、内容は別のゲームといってもいいほど特殊。個人的にはこの第3章をやりたいがために『ドラクエ4』を何度もプレイしなおしたほど、思い入れがある章だ。

 トルネコ自体は、シリーズ初のスピンオフ『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』(1993年、チュンソフト)にも登場し、大ヒットを記録した。この第3章のシステムを気に入っていたプレイヤーもきっと多かったのだろう。そして、このトルネコ風の“別システム”に限らず、ちょっと一風変わった展開のオムニバスストーリーも、『ドラクエ』でまた見てみたいと思うファンも少なくないはずだ。

 振り返ると、『ドラクエ』には挑戦的なシステムが多かったことがわかる。なくなったものもあるが、好評だったものはスピンオフ作に採用されている。今後もファンをうならせる斬新なシステムの登場に期待したい。

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