■太古の地上最強はどんな味? 「ティラノサウルスのステーキ」

 熊の刺身やTボーンステーキの骨は実際に食べることこそ難しいが、一応実在するメニューではある。だが、もし現代に絶対ありえない料理が漫画で描かれて、しかもすさまじく美味しそうだったら、私たち読者はどうすればいいのだろうか?

 多くの『バキ』ファンをそんな気持ちにさせたのが『範馬刃牙 10.5 外伝 ピクル』で登場した「ティラノサウルスのステーキ」だ。

 ある岩塩層から発見された2億年前の原人類・ピクルの傍らには、誰もが知る恐竜時代の最強候補、ティラノサウルスがほぼ完璧な状態で保存されていた。ピクルを調べる研究員・アレンは空腹と好奇心を抑えきれず、保管されたティラノサウルスの一部をこっそりステーキにしてしまう。

 10トン以上あるティラノサウルスから切り出した肉200グラムで作られた、地球史上初であろうティラノサウルスのステーキ。その味をアレンは「ちょっとスジっぽいけどイケるじゃん」と評しているが、読者にはまったく想像がつかない。ビーフやラム、クジラとさまざまな肉を連想しているあたり、既存の肉のどれとも似ているようで似ていないのだろうか?

 これに関しては、もはやマネとか再現とかの問題ではない。肉汁の滴るティラノサウルスのステーキがどんな味なのかを想像し、湧き上がる食欲に耐えること……読者にできるのは、それだけである。

 

 現実には食べられそうにない「刃牙メシ」を紹介してきた。どんな味がするか予測もできないのに「食べたい!」と感じるメニューばかりだったように思う。

 実際に口にできない事実を残念に思えるのは、奇想天外な一皿をこの上なく美味しそうに見せる板垣先生の表現力の賜物に違いない。

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