■バイオレンス描写に驚愕する「EPISODE34 戦慄/EPISODE35 愛憎」
『仮面ライダークウガ』のトラウマエピソードといえば、「EPISODE34 戦慄」と「EPISODE35 愛憎」をあげないわけにはいかないだろう。
緑川学園の生徒たちが次々と命を落とす不可解な事件が発生。その裏には未確認生命体第42号の存在があった。未確認生命体たちはゲーム感覚で人間を襲う「ゲゲル」という遊びに興じていた。「ゲゲル」には法則性があり、第42号のルールは「緑川学園二年の男子生徒を殺すこと」だった。
あまりにも理不尽な理由から命を狙われることになった生徒たちの恐怖。最終的にはクウガが第42号に馬乗りになり、血しぶきを飛ばしながら殴り続けるというバイオレンス描写も最高潮で、『仮面ライダークウガ』における残酷度No.1エピソードとなった。
それまでの『仮面ライダー』といえば、世界征服を企む悪の秘密結社がメインの悪役として据えられ、彼らの暴れっぷりが描かれることが多かった。
しかしながら、同エピソードでは怪人の姿をあまり見せることなく、狙われた生徒たちが突如鼻血を出し意識を失ったり、被害者の顔写真を何度もフラッシュバックさせたりといった、精神的に視聴者を追い込むような演出も多い。クウガ登場シーンに関しても必要最低限に抑えられている。もはやこれが『仮面ライダー』の1エピソードだとは到底思えないほどだ。
子どもの視聴者にとっては、番組視聴後に見知らぬ大人とは目も合わせたくなるほどのエピソードではあるものの、そういった意味では、子どもたちへの注意喚起という役割も担っていたように思う。さらに、どこか学校内での「いじめ問題」や「銃乱射事件」といったものさえ連想させるのが、これまた凄い部分ではないか。
『仮面ライダークウガ』は日曜朝のいわゆる子ども向け番組の枠で放送された番組だ。その枠で、ここまで意欲的な作品を作り上げたことにより、保護者からのクレームが相次いだという伝説もある。現在では放送禁止レベルの内容と言っても過言ではないが、久方ぶりに復活を遂げた『仮面ライダー』に対する、製作陣のこだわりがこれでもかとばかりに伝わってくるようだ。
リアリティを追求するがゆえの残酷描写はトラウマ級のものが多いが、それでもそんなリアル指向を子どものときに観てしまったせいで、その後の『仮面ライダー』にはどうしても物足りなさも感じてしまったのは筆者だけではないはずだ。
裏を返せば、『仮面ライダークウガ』は視聴者の脳裏に焼き付く傑作だったという証拠だろう。