
昭和の子どもたちにとって憧れのヒーローだった『仮面ライダー』は、1989年9月の『仮面ライダーBLACK RX』の最終回後、しばしテレビ放送を休止した後、平成の新番組『仮面ライダークウガ』として2000年1月に復活を遂げる。
本作品は、徹底したリアル指向の人間ドラマ、勧善懲悪だけでは片づけられない重厚なストーリー、現実味のあるアクション描写……どれをとっても日本のテレビ史に残る傑出した作品だった。それと同時に、子どもたちが視聴するにはあまりにも残酷極まりないシーンも数え切れないほどに描かれたテレビ番組でもあった。
今回は、『仮面ライダークウガ』放送開始から25周年という節目の今、多くの視聴者を「重い」気持ちにさせたであろうトラウマエピソードの数々を振り返りたい。
※本記事には作品の内容を含みます
■“死”の恐怖を突き付けた「EPISODE18 喪失/EPISODE19 霊石」
『仮面ライダー』は絶対に負けることのない、命を落とすことのないヒーローとして存在し続けてきた。その概念が揺らぐエピソードが「EPISODE18 喪失/EPISODE19 霊石」だ。
同作は、地殻変動によって復活した未確認生命体=グロンギの脅威にさらされる人類を守るため、オダギリジョー演じる冒険家の青年・五代雄介が、古代のベルトを身につけ仮面ライダークウガとして戦う物語。
「EPISODE18 喪失」で、未確認生命体第26号が凶行を繰り返しているという連絡を受けた五代は現場へと急行。そこでクウガに変身し臨戦態勢に入るも、その最中に毒の胞子を吸い込んでしまい、重傷を負ってしまう。病院へと担ぎ込まれた五代は、そのままラストで命を落としてしまうのだ。心臓の鼓動が止まり、ホルター心電図がピーッと鳴り続ける……。
フィクションとはいえ、人ひとりが“死ぬ”ということに耐性のない子どもたちからすれば、胸元に心臓マッサージの跡が残る五代の身体は、かなり大きな衝撃を与えるものだっただろう。あえて音楽を多用せず、医師や看護師の呼吸がまざまざと伝わってくる演出もリアルだ。無敵だと信じていた仮面ライダーが死んでしまうなんて……と子どもたちに絶望を与えたと同時に、まだ直面したことがないであろう“死”という概念を突き付けたエピソードだった。
続く「EPISODE19 霊石」になってからも、五代=クウガの死は周囲に大きな影響を及ぼす。結果的には復活を遂げるが、ヒーローでも命を落とすことがあるという衝撃は、トラウマを与えたに違いない。今でもヒーロー作品で主要キャラがピンチになると、このエピソードが脳裏にフラッシュバックする大人も多いのではないか。
■通り魔事件が現実とリンク「EPISODE23 不安/EPISODE24 強化」
1990年代から2000年代にかけて、日本では相次ぐ「通り魔事件」が世間を震撼させていた。道を歩いているだけでも物騒な世の中になってしまったことに人々は恐怖したが、『仮面ライダークウガ』にもそんな恐怖を描いたエピソードが存在する。
「EPISODE23 不安」および「EPISODE24 強化」に登場する未確認生命体第36号は、ある条件下にいる人間を次々と襲っていく。手に持った鎌状の武器を、すれ違いざまに一振り。「振り向くな!」と言った瞬間に、背後の人間がバタンと倒れるという恐怖しかない演出は、世間を騒がせているニュースも相まって恐ろしく感じた。
未確認生命体の犯行は怪人態だけでなく、人間の姿をしたままで行われることもある。同エピソードもまた例外ではなく、人間態の第36号が鎌で人を切る……。
たまたますれ違った人間が凶悪犯だったという、現実世界でも起こりうる悲劇を克明に映し出しており、とても他人事として片づけられないものに映った。
子どもながらにしばらくの間、道ですれ違う人々が全員危険人物に見えてしまったことは言うまでもない。無差別に殺戮を繰り返す未確認生命体たちの凶行の中でも、当時の世相も影響して、とりわけリアルなものだった印象だ。