リアタイ世代が語る「1979年の機動戦士ガンダム」、昭和のアニメファンは「伝説の作品」にどう出会ったのか?【昭和オタクは燃え尽きない】の画像
DVD『機動戦士ガンダム 10』(バンダイナムコフィルムワークス) (C)創通・サンライズ

 1979年4月7日、アニメ史にその名を残す『機動戦士ガンダム』のアニメ放送がスタートしました。その当時をふり返ると、私が夢中になっていたアニメは『機動戦士ガンダム』ではなく、その1か月前に放送が始まった『サイボーグ009』でした。

 主人公の“009”こと島村ジョーが、アニメのオープニング映像で涙する姿に魅了され、「うわーっ!」と奇声をあげながらのフォーリンラブ。井上和彦さんの声が繊細な島村ジョーという美形キャラにマッチし、毎週視聴するたびに「今日はジョーがヒドイ目にあいませんように」と願いながらも、アニメでジョーが裏切られたり絶望したりするたびに、テレビに向かって絶叫していた私です。今思えば、あれが最初の“推しへの芽生え”だったのかもしれません。

 このように当時の私は、最初こそガンダムはノーマーク状態だったのです。

 そもそも、1970年代後半から80年代にかけて子どもだった世代がアニメを観るのは、ちょっとだけ大変な時代でもありました。テレビは各家庭に1台、それも家族がそろう茶の間に置かれ、録画機能が普及するのもまだまだ遠い未来という状況。リアルタイムで好きなアニメを観るというのは、至難の業だったのです。

 そこで昭和の子どもは知恵を絞ります。母親には「お手伝いするから」と交渉し、子どもに甘かった父親を巧みな口車で説き伏せるなど、あの手この手でチャンネル権をもぎ取り、アニメ成分を“摂取”したわけです。

 こうした涙ぐましい努力を重ねた私は、女の子ながらロボットアニメが大好きになり、特に『超電磁マシーン ボルテスV』(1977年放送)のような、派手な合体ロボに魅せられるようになりました。これら作品と比較すると、アニメ雑誌で見た『ガンダム』の第一印象は、「なんだか暗いな」「地味だな」だったのです。

■熱心に『ガンダム』を布教するけなげな友人

 そんな「オタクの卵」だった私が、ガンダムをリアタイ(リアルタイム)視聴することになったきっかけは、お友達の“Yちゃん”からの熱烈なお薦め。

 Yちゃんは友だちのなかでも頭2つ3つ抜けるほどのアニメ好きで、同じ女子でありながら、私同様に『勇者ライディーン』(1975年放送)や『無敵鋼人ダイターン3』(1978年放送)など、ロボットアニメに大変詳しかったのです。当時の私にはメチャクチャ高価に思えたアニメ雑誌もたくさん持っていて、いうなれば私にとって、アニメの宣教師フランシスコ・ザビエルみたいな存在でもありました。

 その子による「おもしろいよ」「人気だよ」「安彦良和さんの絵だよ」などのセールストークに加え、『ガンダム』の記事が掲載されたアニメ雑誌を何冊も貸してくれました。

 ところが、島村ジョーにお熱だった当時の私は、特集記事が組まれたガンダムよりも、別のアニメ記事のほうに夢中になるという残念なオタクの卵っぷり。

 それでも、本放映中に『ガンダム』が表紙を飾った『アニメージュ』(徳間書店)のイラストは今も覚えています。キャラクターデザインを担当した安彦良和さんによるシャアの線画だけの緑の表紙、Yちゃんが「アムロのランドセル」といっていた、背のうを背負ったアムロの表紙は印象的でした。

 今では「書店関係の皆さま、大変申し訳ございませんでした!」と平身低頭、謝るしかないのですが、お店で立ち読みしていた『月刊OUT』(みのり書房)や『ふぁんろ~ど』(ラポート)などの投稿型雑誌でも、『ガンダム』放映時は「アニパロ」が取りあげられていました。

 ちなみに「アニパロ」とは、「アニメのパロディ」の略。既存のアニメ作品のキャラクターや物語、設定などを借りて、自分なりの解釈で別作品を作り上げる行為を指します。今でいう「二次創作」のひとつですね。

 特に『OUT』は本放映中に何度か“ガンダム特集”と称して、読者投稿を多く取りあげていました。たとえばセイラさんが、カイを「軟弱者!」と殴るシーンや、ガルマ様の「謀ったな、シャア!」などは汎用性が高かったのか、今でいうネットミームのように多くの読者が漫画やイラストネタとして、ハガキを投稿していたのです。

 パロディ漫画を目的に読んでいた私には分からないガンダムネタも多く、それどころかパロディという一種の“パラレルワールド”なキャラクターを「こんな奴なんだ!?」と勝手に思い込んでいた時期もあるほど。こうした私の誤った認識は、後の本視聴でさらなる誤認を生み出すことになるのです。

■放映当時の『ガンダム』の扱われ方

 最近、「本放送時の『ガンダム』は人気がなくて打ち切られたが、再放送で人気に火が点いた」というような表現をまれに目にしますが、当時の状況をリアルタイムで見ていた私としては「あれ? ちょっと違うぞ~!」というのが率直な感想です。

 前述したように、アニメ雑誌でも『ガンダム』は頻繁に取りあげられ、何度も表紙を飾り、『OUT』をはじめとしたアニパロを扱う雑誌以外でも、いろいろな場所で『ガンダム』ネタが見え隠れしていました。例えば、少女漫画誌『週刊少女マーガレット』(集英社)で連載していた、ひたか良さんの作品には、かなり早い時期から『ガンダム』ネタが登場していたほどです。

 私の周囲を見回してみても、学校のクラスで流行り物好きな男子だけでなく、アニメ好きな女子まで「今週のガンダム観たか?」「シャアが……」みたいな会話をしていました。『ガンダム』関連の雑誌の切り抜きを下敷きに入れ、キャラクターのセリフをまねる子もチラホラ現れ始めます。未視聴の私がなぜ『ガンダム』のセリフだと分かったかというと、有名なセリフはアニパロ知識で履修済みだったからです。

 こうして世間が徐々に盛り上がりを見せはじめたことで、『ガンダム』に対して妙に頑なだった私のウォールマリアは陥落し、数回の視聴ミスを乗り越えて、いよいよ本放映視聴に臨んだのです。

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