■『アイアムアヒーロー』日常の崩壊を告げる役担った片瀬那奈のトラウマ級怪演

 ホラー作品では、“化け物”によって我々が生きる人間社会が崩壊していく様が描かれる。花沢健吾さんによる同名漫画を原作とした2016年の映画『アイアムアヒーロー』は、原作漫画冒頭の壮絶なパンデミックが最新の映像技術で存分に再現された。

 同作は大泉洋さん演じる漫画家を目指す青年・鈴木英雄が、謎のゾンビ的怪物・ZQNに侵食される世界で生き残るために奮闘していく物語。日常がある日を境に変貌するが、その“日常の崩壊”を告げたのが、片瀬那奈さんが演じた英雄の恋人・黒川徹子のシーンだ。

 現在は女優以外に、ファッション通販サイト「ロコンド」などを運営するジェイドグループの社員としての顔も持つ片瀬さん。彼女が演じる徹子は、英雄に優しく接しながら、ときにはうだつの上がらない彼に苛立ちをあらわにする女性だ。実に人間臭いキャラクターなのだが、彼女はアパートを訪れた英雄の目の前で、ZQNへと変貌してしまう。

 ベッドから起き上がり、激しく床をのたうち回るその異様な姿もさることながら、玄関から覗き込む英雄をめがけて襲いかかってくる姿はまさしく“化け物”。

 このシーンは英雄の主観視点で映像が展開されるのだが、こちらに向けて突進してくる姿は、思わず身じろぎしてしまうほどの迫力。別方向を向いた目をカッと見開き、ドアを歯が抜け落ちるほどの力で噛み締めるおぞましい表情を見て、トラウマになってしまった人も多いのではないだろうか。

 原作漫画でも徹子の感染シーンは見開きを使い大迫力で描かれているのだが、実写版では肉体の歪な動作が生々しく伝わってくることから、よりおぞましい恐怖を視聴者に叩きつけてくれる。

 同作では有村架純さんがZQNに感染した女子高校生・早狩比呂美を演じたことも話題になった。容赦ない変貌ぶりで視聴者を恐怖のどん底に突き落とした、女優たちの怪演が光る一作だ。

 数々のドラマ、映画で活躍する名女優たちだが、彼女らが持つ美貌や演技力は“化け物”役になってもなんら衰えることなく、その魅力を存分にスクリーン上で表現してくれる。

 寄生生物、悪の女王、感染者……“化け物”の姿や性質も様々だが、それらを難なく演じてしまうのが、彼女たちが名女優たるゆえんだろう。実写作品で女優たちが見せつける怪演の数々を、ぜひその目で確かめてみてほしい。

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