
『機動戦士ガンダム』で描かれた一年戦争における地球連邦軍の指揮官は、アムロやシャアなど華々しい活躍をみせたパイロットと比べ、派手な活躍をみせる場面は少ない。明らかに無能な存在に思える者もいたが、なかには地味に戦局を支えた有能な軍人たちも存在した。
彼らは決して目立つ存在ではなかったものの、戦略面や指揮能力によって連邦軍の勝利に貢献している。本記事では、あまりスポットが当たることのない“地味に有能な”連邦軍人たちに注目し、彼らが残した功績を振り返っていく。
※本記事は各作品の内容を含みます。
■アムロの才能をいち早く見抜いた『パオロ艦長』
ホワイトベースの初代艦長パオロ・カシアスは、一見地味な存在ながらも有能な連邦軍人だった。連邦軍の切り札である「V作戦」の専用母艦を託されたことからも、彼の軍内部での信頼の厚さがうかがえる。
アニメの第1話『ガンダム大地に立つ!!』では、パオロが指揮するホワイトベースがシャアの部隊の追跡を受け、サイド7で極秘裏に製造されていた連邦の新兵器を発見されてしまう。さらにシャアの部隊の奇襲を受けてパオロは負傷、ホワイトベースの正規クルーを多数失うことになる。
一見すると、指揮官であるパオロの失態のようにもみえるが、シャア自身「私もよくよく運のない男だな。作戦が終わっての帰り道であんな獲物(ホワイトベース)に出会うなどとは」と語ったように、これは偶然の要素が大きかった。むしろ辺境のサイド7に向かう艦を捨ておかず、「何かある」と最後まで追ってきたシャアの勘の鋭さを称賛すべきだろう。
また、パオロはベテランの軍人でありながら、軍の伝統や規則に固執せず、柔軟な判断力と対応力を持ち合わせていた。彼は民間人だったミライ・ヤシマにホワイトベースの操舵を任せ、アムロの才能にいち早く気づいてガンダムを託すなど、正式な乗組員がほぼ全滅した危機的状況下で、的確な判断を下している。その場にいた若き士官候補生のブライトが驚くほどの、柔軟な発想を持っていたのが印象的だった。
もしパオロが戦死せず艦長を続けていたなら、ブライトも含めて若すぎるホワイトベースクルーの精神的支柱となったことは間違いないだろう。
■最初の悪印象を払拭した『ワッケイン司令』
第4話『ルナツー脱出作戦』にて、地球連邦軍の宇宙拠点ルナツーの司令官として登場したワッケイン。ホワイトベースの視点から見ると、彼の第一印象は決して良いものではなかった。
サイド7からようやくたどりついたホワイトベースを封印し、軍の最高機密に触れたとしてクルーたちを拘束する。こうした非情にもみえる行動は、視聴者に「融通の利かない司令官」という印象を与えたことだろう。
しかし、ワッケインはただの「融通の利かない司令官」ではなかった。年長者であるパオロ艦長の説得を受け入れ、最終的にホワイトベースをブライトたち若手クルーに託す決断を下している。
さらにホワイトベースの主砲で、港の出口を塞いでいた自艦マゼランを撃破させるという大胆な作戦も敢行してみせた。さすがのシャアもこれは予測できなかったようで、あわや爆風に巻き込まれかけている。ワッケインの決断力が際立った瞬間である。
そして第35話『ソロモン攻略戦』で再登場したとき、ワッケインの印象はさらに大きく変わった。久しぶりに再会したブライトに「貴様も一端の指揮官面になってきたかな」と成長を素直に喜ぶワッケイン。さらにアムロについても「素晴らしい才能の持ち主だ。彼は我々とは違う。そう思えるんだ」と、ニュータイプの可能性を感じ取ったかのような発言を残している。
かつてホワイトベース隊を冷遇したワッケインだったが、この頃には彼らの実力をしっかり認め、見守る立場になっていた。
そんな彼の最期は壮絶で、軍人としての魂を感じさせるものだった。第38話『再会、シャアとセイラ』でワッケインの指揮するマゼランは、ジオンのザンジバルと激しい艦砲戦を繰り広げる。
頑丈なザンジバルの前面装甲は、マゼランが放ったメガ粒子砲すら弾いており、連邦側が劣勢に立たされた。それでもワッケインは「すぐにホワイトベースも応援に来てくれる。それまでもたせるんだ」と部下を鼓舞するが、ホワイトベース到着時には、むなしくも彼の艦は宇宙の塵と化していた。
なお劇場版でのワッケインは、ソロモン攻略戦にて最後のミサイル一斉射でチベ級艦を撃沈しながら戦死するという、より劇的な最期が描かれている。
いずれにせよ、最後まで諦めることなく軍人としての職務を全うし、壮絶な最期を遂げたワッケイン。まさに軍人の鑑といえる逸材だった。