■天使の役を降りた
海外で起こった事件にもとんでもない動機があった。それが34巻、35巻収録の「工藤新一NYの事件」だ。このエピソードでは、新一と蘭がニューヨークでミュージカルを観ている時に事件が起こった。
上演中、舞台上で大天使ミカエルの役をしていた男性俳優が銃殺されてしまう。これには同じ舞台に立つ女優たちが疑われることになり、その中のひとりが犯人だった。
新一がトリックを見抜いて犯人を追い詰めると、犯人は観念して自白する。そして、犯行の動機は男性俳優が天使の役を降りたからだと話した。
犯人からすると、この作品の天使役は殺した男性俳優しかふさわしくないと思っていたようだ。それなのに、男性俳優に映画出演の話がきて天使の役を降りると知ると、天使役のまま人生を終わらせようという、とんでもない発想になる……。
男性俳優が直接恨みを買ったわけではないのに、舞台上の役を降りるというだけで殺されてしまったのは、気の毒としか思えない。あまりにも歪んだ愛情から起こってしまった事件といえる。
■元彼の髪を新しい彼女好みに切りたくなかった
最後に紹介したいのが、59巻収録の「弁護士妃英理の証言」での事件だ。この事件は女性美容師が犯人で、客としてやってきた元恋人を殺害し、妃英理を利用してアリバイ作りをするという内容になっている。
犯人の女性が元恋人を殺した理由は、彼が現在付き合っている彼女好みの髪にすることをリクエストし続けてきたからだ。付き合っていた頃は自分の好みの髪にしてくれたのに、別れた後は今の彼女の言いなり……。それが許せなくて、殺害という手段に出てしまったという。
美容師だからこその葛藤もあったのかもしれないが、髪型だけで元恋人を殺害するとは驚きだ。
しかし、元恋人も別れた後に前の彼女に髪の毛を切らせているとは……。今付き合っている彼女がそのことを知ったらどう思うだろう。それも含め、この事件は不可解なところが多かった。
『名探偵コナン』にしばしば登場する、理不尽な動機で犯行をする犯人たち。しかし、人が取る行動は型にはまったものばかりではないから、現実でもこのようなことが起こり得るのかもしれない。
多彩な人間心理を描いているところもまた、本作の魅力のひとつだといえるだろう。