■いずれも悲しい…鬼になった人間たち
しかしその無惨自身も、もともと鬼になろうとして鬼になったわけではない。アニメ『刀鍛冶の里編』最終話で無惨が鬼になった理由が明かされている。
平安時代に生まれた無惨は身体が弱く、20歳までに死ぬと言われていた。そこで医者が投与した新薬によって、強靭な肉体を持つかわりに日光の下に出られなくなったのだ。これが最初の鬼の誕生の場面である。
同情はできないが、もともと病に臥した人間であるという共通点や、鬼になることのデメリットや詳細などを知らずに鬼にされたという点では彼も珠世や累たちと変わらないのかもしれない。
また、『遊郭編』で激しいバトルが描かれた上弦の陸・妓夫太郎と堕姫も悲しい理由があって鬼になったキャラクターだった。
遊郭の最下層で生まれた2人は食べるものもないまま身を寄せ合って生きてきたが、人間によって虐げられ、人間に殺されかけて上弦の弐・童磨によって鬼になった。生きたまま焼かれ瀕死状態だった堕姫はもとより、妓夫太郎も生き続けるには鬼になるしかなかったのだ。
2人きりで生きてきた立場の弱い兄妹を、都合よく排除しようとする人間の心こそ鬼のようである。これではどちらが悪なのかわからない。
自身の幸せを願って鬼になったものも、鬼にならなければこのまま死んでいたものも、その心の底にはきっと純粋な願いがあったのだろう。作中では多くの人を殺めている鬼だが、そもそも鬼は人間を食えば食うほどに人間性や記憶を失ってしまうという存在である。実は作品の中で描かれているよりもはるかに多くの鬼が、もっと悲しい過去をもっていたのかもしれない。