■人形・右近とセットで難事件を解決する『人形草紙あやつり左近』の橘左近

 1995年から連載されたのが『人形草紙あやつり左近』(原作:写楽麿氏)だ。主人公は人間国宝の文楽人形師を祖父に持つ橘左近。明治2年生まれの童人形「右近」を腹話術を使いながら操り、難事件を解決していく。

 本作は主人公が謎を解き明かすミステリー漫画だが、小畑氏の絵が上手すぎることもあり、ホラー要素もあった。深夜に読むのが怖くなるほど、うつろな目をした人物や不気味な人形の描写は圧巻だった。

 さて、普段の左近は大人しく人見知りの美青年(少年にも見える)だが、相棒である右近を操ると豹変。とたんに冷静沈着になり、抜群の推理力を見せるのだ。他誌のミステリー漫画で当時人気を誇った『金田一少年の事件簿』の金田一一や『名探偵コナン』の江戸川コナンと並ぶ頭脳を持っているといえよう。

 ちなみに左近が操る右近はとても口が悪い。腹話術だと思えないほど人形が語っているようで、本当に左近と右近の2人で事件を捜査している感じがしたものだ。

 右近が何かに気づいてそれを左近が推理していくパターンが多いのだが、基本的に饒舌な右近がいると左近は無口で不愛想となる。だが、真相を見抜きそうなときに見せるクールな表情はカッコ良く、どこか色気が漂っていた。

 また、左近は頭脳だけでなく特殊能力も凄い。左近が祖父から伝え聞いた「人形遣いは人間遣い 腹話術は読唇術 真似るのは声色だけでなく内なる声」という言葉通り、亡くなった人を右近に宿らせ、心理を喋らせることもできる。

 そんなクールな左近に対し、一言多い右近は元気でやんちゃな印象のキャラであり、独自の思考を持っているようにも見えるのも面白かった。忘れてしまいがちだが一応左近が操っているので、彼も本来は明るい性格なのかもしれない。

 

 さて、今回紹介した小畑氏の漫画はどれも短期連載で終わってしまったのだが、綺麗で迫力ある画力だけに残念で、もっと読みたかったものだ。

 そういえば、1992年に連載された『力人伝説ー鬼を継ぐものー』(原作:宮崎まさる氏)も面白かった。当時絶大な人気を誇った大相撲の若貴兄弟のストーリーをリアルに描いた作品なのだが、顔が実物にそっくりすぎて驚かされたものである。

 当時から圧倒的な画力を持つ小畑氏の漫画を、ぜひこの機会に読んでみてはいかがだろうか。

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