■本に囲まれて生き本に囲まれて死亡した主人公『本好きの下剋上』
香月美夜さんのヒット作であり、本好きの本好きによる本好きのための転生作品『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』では、主人公・マインの生前の姿、本須麗乃が個性的な死を遂げている。
作者が「本は須く、うらのである(本は当然私の物である)」という意味を込めた”本須麗乃”の名からもわかるように、彼女は本をこよなく愛する女性だ。本に囲まれて生きることに幸せを感じる彼女は司書の資格を取り、大学卒業後に図書館への就職を決めていた。
だがその矢先に大きな地震が起こり、志半ばで自室の本に圧し潰され死亡してしまう。死の間際、神に「生まれ変わっても本がたくさん読めますように」と祈った麗乃は、麗乃の記憶を持ったままエーレンフェストに住む5歳の少女・マインの体に転生するのだった。
いくら好きとはいえ、数百、数千冊の本が上から降ってくるのは怖すぎる。地震が原因というのも現実的にあり得る話ではあるので、本好きはこれを機に自宅の本棚の落下対策をしてみてはいかがだろうか。
■過酷な人生と哀れな死因に同情『神達に拾われた男』
最後は、Royさんの『神達に拾われた男』を振り返りたい。同作の主人公、リョウマ・タケバヤシこと竹林竜馬の半生は、過酷で不憫なものだった。
生前は、39歳独身のSEだった竜馬。ガタイはいいが、それはワンマンな父親に拷問のような武術教育を受けたからであり、性格はおとなしい。
両親の死後、一人でなんとか生活していた竜馬だが、就職先に恵まれず行き着いた先は劣悪な労働環境の企業だった。精神も追い詰められ、虚ろな眼差しや目の下のクマなどからもギリギリの生活を送っていたことがわかる。
ある時、竜馬が目覚めると目の前に3人の神がいた。彼らから死を告げられた彼は、「早死にすると思っていた」と、あっさり死を受け入れて微笑む。だが、死因を聞いて態度が急変……というのも、”寝ている時に4回くしゃみをし、そのたびに枕が動いて最終的に頭を床に打ち付け、脳内出血した”というとんでもない理由で命を落としていたのだ。
くしゃみで脳内出血するとはすでに体が限界を超えていたと推測できるが、これまで上司にビール瓶で殴られても無事だった竜馬は「くしゃみなんかで……」とショックを受けてしまう。
確かに不本意過ぎる死で、もしも自分だったら後悔しかないだろう。だが苦労続きだった竜馬は、異世界で楽しく自由に生きろという神々の言葉に涙を溜め、感謝を告げながら転生するのだった。
今回紹介した作品のように、異世界転生するキャラの中には受け入れがたい死を遂げてしまった者も多い。『この素晴らしい世界に祝福を!』のような勘違いによる死は最もショックが大きそうだが、いずれにせよ彼らは新たな世界に行くことで現生よりも輝く人生を手にするのである。