■「母さんです…」その手に抱える悲しみの塊
最後は、『機動戦士Vガンダム』にて主人公のウッソ・エヴィンがこぼした悲痛な言葉だ。
ザンスカール帝国の“地球クリーン作戦”として投じられたモトラッド艦隊に抵抗するウッソ・エヴィンら、リガ・ミリティアの面々。
ウッソの母であるミューラ・ミゲルは人質に捕られ、MS・ゾリディアに生身で掴まれたまま戦場に連れ出され、盾として利用されることとなる。やがて戦闘のはずみで戦艦・アドラステアの巨大な2本の砲身にMSごと挟まれてしまう。
切迫した状況の中、ウッソがV2ガンダムに乗りながら母のそばで必死に救出方法を模索していると、突如背後からバイク型の巡洋艦・リシテアが迫ってくる。ウッソは反射的にその場を離れるが、残されたミューラはリシテアの巨大なタイヤに巻き込まれてしまうのだ。
戦闘終了後に血の滴るミューラのヘルメットをぼうぜんと抱えるウッソは、仲間のマーベット・フィンガーハットに「母さんです……」とそのヘルメットを差し出す。この時、ヘルメットを受け取ったマーベットが明確に重量を感じていることから、ヘルメット内にミューラの肉体が残されていることが想像できる。
少なからず救える可能性のあった自身の母を、無惨にも目の前で亡くしたウッソの胸中は計り知れない。確かに母でありながら、もはや母とは呼び難いその“ヘルメット”を仲間に差し出すこのシーン。ウッソの悲痛や哀愁、後悔などのありとあらゆる悲しみの感情が集約された『ガンダム』シリーズきっての悲痛な一言だった。
キャラクターたちの壮絶な最期は視聴者に強烈な印象を残すが、余韻として放たれるその一言も、一度観たら決して忘れることはできない。
時折目を背けたくなるほど残酷な様子が描かれる『ガンダム』シリーズは、フィクションといえど妙に生々しく、キャラクターの想いが凝縮された悲しい描写につい引きこまれてしまう。これも、本作のすごさと言えるのではないだろうか。