■そいつをよこせぇぇ!!『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』

 田中さんが引き続き素子を演じた、2002年放送のテレビアニメ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』。本作では彼女の冷静な側面だけでなく、熱い一面も描かれていたのが印象的だ。とくに「笑い男事件」の重要なシーン、重要参考人・今来栖尚を巡る攻防戦が圧巻だった。

 厚生労働省中央薬事審議会が送り込んだ“麻薬取締強制介入班”と公安9課が激突。軍事用アームスーツを持ち出してきた相手に、特注義体の素子でも歯が立たず、絶体絶命の状況に。しかし、9課もサイトーとパズが対戦車ライフルを持って駆けつけたことで、形勢が逆転する。

 この一件の前には9課の仲間・トグサが意識不明の重体にされており、そのことが影響したのだろうか。素子は「サイトォー! そいつをよこせぇぇ!!」と叫び、対戦車ライフルを受け取ると、敵が命乞いしているにもかかわらず、倒れるアームスーツに銃弾を叩き込み続ける。

 いつもはクールな素子がここまで感情を爆発させるのは珍しく、田中さんの鬼気迫る叫びが、このシーンの迫力を最大限に引き出していた。

 

 2024年8月20日、約1年の闘病生活を経て逝去された田中敦子さん。

 1995年の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』以来、草薙素子を演じ続けた彼女は、2023年『攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間』の舞台挨拶の際に「彼女がいなければ今ここにいないと思えるくらい大切なバディです」と語るほど、この役に深い愛情を注いでいた。

 その演技は“少佐”こと素子を見事に体現し、多くの視聴者の心を掴んだ。彼女の声と演技はこれからもファンの記憶に残り続け、そして少佐とともにネットの海で生き続けることだろう。

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