
劇場アニメ『イノセンス』の公開20周年を記念し、同作と前作『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の4Kリマスター版が2月28日から劇場公開される。
本作は士郎正宗さんの漫画『攻殻機動隊』を原作に、押井守監督がアニメ映画化した作品だ。サイバーテロに対抗する特殊部隊「公安9課」の活躍を描くこのシリーズにおいて、田中敦子さんが演じる“少佐”こと草薙素子は強烈な存在感を放っていた。今回の4K上映を機に、田中敦子さんの名演技を振り返ってみたい。
※本記事には各作品の内容を含みます
■草薙素子といえばあのシーン『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』
1995年に公開された『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』は、本シリーズ初の映像化作品であり、田中さんが初めて草薙素子を演じた作品だ。電脳化やサイボーグ技術が飛躍的に進んだ近未来を舞台にした本作。その冒頭の暗殺シーンは、それを非常に象徴したものだった。
国防にかかわるプログラマーの男を、亡命と称して他国へ連れ出そうとする外交官。特殊部隊が突入し男の引き渡しを要求するも、外交官は免責特権を盾に拒否。「口を慎んでもらいたいな。我が国は平和主義の民主国家だ」と強気に挑発する。
それに対し、素子は「あらそ」と短く呟くと、高層ビルの外から獲物をかっさらうかのように外交官を射殺。そのまま高層ビルをフリーフォールし、光学迷彩のステルス機能を起動させ半透明の姿のまま消えていく。
この「あらそ」という短い一言に、素子のプロフェッショナルさ、世界屈指の義体使いとしての余裕、そして彼女の正義と皮肉が詰まっており、田中さんの声の演技が、このシーンの印象をより鮮烈なものにしていた。
■バトーの前に現れた守護天使『イノセンス』
2004年公開の『イノセンス』は、前作『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』のラストでネットの海へと旅立ち、消息を絶った素子。その喪失感を抱えた相棒・バトーを主人公に据えた作品だ。そのため田中さん演じる素子の登場シーンは限られるが、その存在感は圧倒的だった。
クライマックスでは、バトーが黒幕であるロクス・ソルス社の製造プラント船に乗り込み、大量の少女型アンドロイドと交戦。その最中、その1体が突如としてバトーを援護し始める。それが素子だった。
「久しぶりだな少佐 今は何と呼ぶべきかな?」と問いかけるバトーに対し、少佐は状況を手短に説明し、次々と的確な作戦指示を出す。そんな彼女の機械むき出しのボディに、バトーが自身のベストを掛けてやると、素子は静かに「変わってないわね」と呟く。
見た目はガイノイドであるため、かつての素子とはまったく異なるが、田中さんの声があることで、紛れもなくそれが“少佐”だと感じるから不思議だ。素子とバトーの関係性を象徴する、個人的に大好きなシーンだ。