■ホワイトベース隊を圧倒した類まれなるセンス

 ニュータイプ専用モビルアーマー「ブラウ・ブロ」を駆って出撃したシャリア・ブルは、迎撃に出てきたホワイトベース隊と激突することになる。しかし、劇中での交戦時間はわずか数分と短いもので、最終的にはアムロのガンダムが至近距離から放ったビーム・ライフルに貫かれ、あっけなく戦死する。

 しかし、その戦いを詳細に振り返れば、シャリア・ブルの実力がいかに高かったかが分かるはずだ。

 互いにニュータイプであるシャリア・ブルとアムロは、戦闘に突入する前から「これまでの敵とは何か違う」と察知しあっていた。

 ハヤトのガンタンク、カイのガンキャノンが援護しようとするが、アムロは「下がれ! この敵はいつものモビルアーマーとは違うぞ! 下がれ!」と強く警告。ここまであからさまにアムロが撤退を進言する姿も珍しい。これひとつとっても、シャリア・ブルがこれまでの敵とは違う、異質な存在だったことを示している。

 実際、シャリア・ブルが操るブラウ・ブロによる変幻自在のオールレンジ攻撃に対し、ハヤトたちは敵の位置すら捉えることができず、カイのガンキャノンはあっさりと両脚部を破壊されている。

 そして、そのときのシャリア・ブルの戦闘をより詳細に描いた作品がある。それは2007年発売のDVD『GUNDAM EVOLVE../A』に収録された短編CGアニメ『EVOLVE../15 RX-78/MAN-03 BRAW-BRO』だ。

 この作品では、アニメ本編では短すぎたアムロとシャリア・ブルによる異次元の戦いがより濃密に描かれていた。四方八方からメガ粒子砲を飛ばしてくるブラウ・ブロのオールレンジ攻撃が、いかにとてつもないのか視覚的に強調されており、それを操っていたシャリア・ブルの能力が、どれだけすさまじいかが伝わってくる内容となっている。

■ブラウ・ブロが単独出撃した背景にあるもの

 シャリア・ブルの戦死を知ったシャアは、ギレンとキシリアの間で板挟みになっていた彼の苦悩をララァに語り、「潔く死なせてやれただけでも彼にとって……」と意味深に告げている。まるで彼が自殺同然で出撃したようにも聞こえるが、シャリア・ブルのような男が、同乗する女性技術士官のシムス中尉を道連れにするような選択をとるとは到底思えない。

 また、ララァが不満を漏らしていたように、彼女のエルメスやシャアのゲルググが同行していたら、シャリア・ブルがあれほどあっさり倒されることはなかっただろう。シャアはエルメスの調整が完全になるまではララァを出撃させないと説明していたが、その心の内までは分からない……。

 だが、富野由悠季氏の手がけた小説版では、シャリア・ブルはシャアの右腕であり親友として描かれている。いずれにせよ、その素晴らしい才能やさまざまな背景を考えると、わずか1話の登場で退場させるにはあまりにも惜しい逸材だったのは間違いない。

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