
1979年放送のテレビアニメ『機動戦士ガンダム』に登場するキャラクターのシャリア・ブル。洞察力に優れたニュータイプとして華々しく登場したものの、アムロのガンダムにあっさり敗れ、短い出番で退場してしまった印象がある。
しかし、彼がニュータイプ部隊に抜擢された背景や作中の描写を振り返ると、実は非常に重要な存在だったのではないかとも思える。今回は、そんな不幸な苦労人シャリア・ブルの真価に迫ってみたい。
※本記事には作品の内容を含みます。
■「木星帰りの男」という肩書が持つ特別な意味
ジオン公国軍の宇宙要塞ソロモンは連邦軍に陥落させられ、ジオン攻略の橋頭堡として整備が進められるなか、シャリア・ブルが登場する。
彼は、ジオン総帥であるギレン・ザビに招集され、木星船団を率いて資源のヘリウムを持ち帰った功績を伝えられた。つまりシャリア・ブルは「木星帰りの男」であり、このフレーズに『機動戦士Zガンダム』のパプテマス・シロッコを思い浮かべる人も多いだろう。
ガンダムシリーズにおいて「木星帰りの男」とは単なる経歴を示す肩書ではなく、特別な意味を持つ称号ともいえる。
モビルスーツや戦艦の動力源となる熱核反応炉には「ヘリウム3」が不可欠であり、その主要供給地が木星だった。シャリア・ブルが率いた木星船団はこのヘリウム3を輸送するという極めて重要な任務を担ったのである。
木星圏への長期にわたる星間航行の任務はかなり過酷であり、その任務を成し遂げた人物のなかには特別な力に目覚めた者もいるという。言明はされていないが、シャリア・ブルやパプテマス・シロッコらのニュータイプ能力が研ぎ澄まされたのは、そのあたりが影響した可能性だとも考えられる。
■軍上層部からの扱いに苦悩?
そんな「木星帰りの男」シャリア・ブルは、周囲からどのように評価されていたのだろうか。「多少人より勘がいい程度」と自身のニュータイプ能力を謙遜するシャリア・ブルに対し、ギレンは「君のことは君以上に私は知っているぞ」と言い放ち、その能力を高く評価している様子がうかがえた。
だが、そのシャリア・ブルを、わざわざ自身の政敵ともいえるキシリア・ザビのニュータイプ部隊に送り込んだのは、さまざまな思惑が隠されていたのはいうまでもない。そして、シャリア・ブルは口には出さなかったが、そのギレンの狙いを読み取っていたようにも見えた。
そしてキシリアも「ララァよりニュータイプとしては期待が持てるかもしれぬ」と発言し、場合によってはニュータイプ用に開発されたモビルアーマー「エルメス」をシャリア・ブルに託す可能性すら示唆している。こうした両陣営からの高評価がシャリア・ブルを板挟み状態に追い込む要因となったのかもしれない。
また、シャア・アズナブルと握手を交わす際、シャリア・ブルは「もし我々がニュータイプなら、ニュータイプ全体の平和のために案ずるのです」と語った。ギレンとの謁見の際に、総帥の考えを感覚で察するような描写もあったが、この対面時にシャアの思惑や考えを読み取っていたとしても不思議ではない。
そして同じニュータイプとして比較されがちなララァ・スンも、シャリア・ブルの存在を強く意識していた。実際に対面した際は、互いに何かを感じ取った様子で、一瞬緊迫した空気が流れている。
その後、シャアがシャリア・ブルのブラウ・ブロのみを出撃させると、「なぜ大尉だけおやりになるのです!」と不満を漏らしており、ライバル意識を抱いているように見えた。
このようにシャリア・ブルはジオン軍の上層部からは大きな期待を寄せられ、卓越したニュータイプであるララァにはライバル視されるほどの実力者だったのである。