■嵐の夜の取り違え…出生の秘密が重すぎる

 さらに大映ドラマのお約束テーマといえば、“出生の秘密”だろう。

 1976年に放送された『赤い運命』(TBS系)は宇津井健さん、山口百恵さんが主演を務めたサスペンスドラマだ。物語は伊勢湾台風で混乱が起きるなか、生まれた子どもが取り違えられたことで運命の歯車が大きく狂い始める……という内容だ。本来ならば交わるはずのなかった人生が交錯し、悲劇へと向かっていくのが見どころである。

 また、似たようなシチュエーションに1985年に放送された『乳姉妹』(TBS系)がある。

 ヒロインの資産家令嬢・大丸千鶴子(伊藤かずえさん)と、貧しい漁師の娘・しのぶ(渡辺桂子さん)は、18年前の暴風雨の夜中に生まれた。

 しかし、実は出生時に取り違えられており、その事実を知った千鶴子はますますしのぶを恨み、彼女に執拗な嫌がらせを繰り返す。さらには不良グループを巻き込む騒動にまで発展し、物語は波乱の展開を迎えている。

 上記2作品は、いずれも出生時の取り違えが原因で波乱万丈な人生が続くが、他にも大映ドラマでは生まれた時から不幸な境遇に置かれるヒロインがいた。

 たとえば、1986年に放送された『花嫁衣裳は誰が着る』(フジテレビ系)のヒロイン・雪村千代(堀ちえみさん)だ。

 千代は幼い頃に母を失くし、父親も知らない孤独な少女だ。のちに伯父夫婦に引き取られるが、そこで待っていたのは伯母やその娘によるひどいいじめであった。

 このように大映ドラマでは出生に秘密があったり、生まれた時から不幸な立場に置かれているヒロインが少なくなかった。

 

 大映ドラマは、今でも時々ローカルテレビなどで放送されることがある。それらを久しぶりに観てみると、壮絶ないじめや出生の秘密以外にも、殺人や爆発といった衝撃的なシーンが盛り込まれていることに驚くし、さらには“こんなことあるか!”と、思わずツッコミを入れたくなる展開も多々登場する。

 しかしこうした現実ではありえないジェットコースターのような展開が、人々の心をつかんだのも事実である。自分の人生において大映ドラマのような破天荒な展開は勘弁願いたいが、ドラマとして観るぶんにはこれほど面白いものはないだろう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3