ありえない事故に出生の秘密、記憶喪失…70・80年代「大映ドラマ」視聴者をクギヅケにした「お約束の劇的展開」の画像
CD『大映テレビ主題歌コレクション~フジテレビ編』(キングレコード)

 1970年~80年代にかけてお茶の間を湧かせた「大映ドラマ」。大映テレビが制作したテレビドラのことである。「大映ドラマ」は現在のドラマとは異なり、禁断の恋やライバルによる執拗な嫌がらせ、大切な人の死など、現実ではそうそう起こらないような出来事が次々と巻き起こるのが特徴だ。だからこそ視聴者は目が離せず、夢中になった。

 とくに“記憶喪失”や“出生の秘密”といった展開は、日常生活ではまず経験することのない展開である。今回は、そんな非現実的ながらも魅力的な「大映ドラマ」の“お約束”ともいえるストーリー展開を3つ紹介したい。

■スキーで両手の指だけ粉砕骨折? 日常ではあまり起こりえない事故が多発

 大映ドラマでは、日常ではまず起こりえないであろう事故が多発する。

 まず紹介したいのが1983年に堀ちえみさん主演で人気を博した『スチュワーデス物語』(TBS系)だ。

 このドラマは堀さん演じる客室乗務員の訓練生・松本千秋と、風間杜夫さん演じる男性教官・村沢浩との恋を描いた物語だ。しかし沢村には片平なぎささん演じる元婚約者・新藤真理子が常につきまとっていた。彼女の両手は義手であり、村沢の前で義手の上にはめている黒い手袋を歯で噛み引きはがす姿はインパクトがあった。

 では、なぜ真理子は義手なのか。その理由は真理子が昔スキーへ行った際、彼と衝突したことで両手の指を粉砕骨折してしまったからだ。医療技術が今ほど発達していなかったとはいえ、スキーでの衝突によって両手の指だけ粉砕骨折するというのはかなり珍しいかもしれない。

 また、1987年に放送された『プロゴルファー祈子』(フジテレビ系)も、序盤からすごい事故が起きる。ヒロインの神島祈子(安永亜衣さん)は、幼なじみ・野上信也の打ったゴルフボールが胸に直撃して重傷を負ってしまう。それを見た祈子の兄・徹は信也に激高し、怒りのあまりゴルフクラブで信也を殴打してしまうのだ。

 いくら昔とはいえ、胸にボールが直撃してしまうほどの至近距離でゴルフの練習をするなんて、あまり想像できない。「妹に何するんだ!」とゴルフクラブで思い切りめった打ちにする徹にも驚きだが。

 このように大映ドラマの世界では「あっ!!」という驚きの顔とともに、信じられない事故がしょっちゅう起きていた。

■主人公の記憶喪失も王道パターン

 そして大映ドラマに欠かせないのが、「ヒロインの記憶喪失」だろう。その典型が、1979年に放送された『赤い嵐』(TBS系)だ。

 ヒロインの小池しのぶ(能勢慶子さん)は記憶を失っているところを助けられ、豆腐店で働くこととなる。しのぶは過去のことを思い出そうとすると“わからない……わたし、お豆腐作ります”と話をそらしてしまう。この「お豆腐作ります」という印象的なセリフは、当時の子どもたちがマネをして流行ったものだった。

 だが、しのぶは自分がピンチになると一瞬記憶が戻り、過去の荒々しい人格が出てくる。こうした“記憶を失った少女がふとした瞬間に本来の姿を見せる展開”は、大映ドラマの王道パターンであった。

 また1985年放送の『ヤヌスの鏡』(フジテレビ系)も、ある意味、記憶喪失をテーマにした作品といえる。このドラマは二重人格の少女を描いた物語だ。

 ヒロイン・小沢裕美(杉浦幸さん)は、厳格な祖母のもとで育った真面目な女子高生。しかし、夜になると別人格の“ユミ”として非行に走る。喧嘩や窃盗などさまざまな事件を引き起こすが、朝になるとその記憶はすっかり消えてしまうのだ。

 現実で記憶喪失が起こることはなかなかないだろう。しかし、大映ドラマの世界における記憶喪失は、物語を展開するうえで欠かせないシチュエーションのひとつなのである。

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