
アニメ『機動戦士ガンダム』に登場する「テム・レイ」は、ガンダムを設計した優秀な技術士官であり、主人公「アムロ・レイ」の父親でもある。
しかし、そんな彼のことを「仕事一筋で家庭を顧みない父親」と思っている人もいるようだ。物語序盤で起こった印象的な出来事、そしてその後に再会したときの描写から、そのようなイメージをもたれやすいのかもしれない。
彼は本当に冷淡な父親だったのだろうか。今回は、アムロの実の父親である「テム・レイ」の人物像をあらためて掘り下げてみたい。
※本記事は作品の内容を含みます。
■なぜテム・レイは「冷たい父親」と思われがちなのか
筆者自身、子どもの頃はテム・レイにはどこか怖いという印象を持っていた。それは、第33話「コンスコン強襲」で描かれた彼の姿が、あまりにも衝撃的だったからだろう。
サイド6で奇跡的にアムロと再会したものの、久々の親子の対面にもかかわらず、開口一番に発したのは「ガンダムの戦果はどうだ?」という言葉だった。どこかくたびれた格好と猫背の姿勢も相まって、かつての優秀なエンジニアの面影はあまり感じられない。
彼はアムロをジャンク屋の二階にある薄汚れたアパートに招き入れると、時代遅れの回路をガンダムに取りつけるようにと押しつける。さらにアムロが母親の話題を出してもあまり興味を示さず、挙句の果てには「急げ! お前だって軍人になったのだろうが!」と怒鳴りつけて、息子を追い返してしまうのだった。
ほかにも、ガンダムの活躍がテレビで報道されると幼子のように興奮し、劇場版では「地球連邦万歳! 万歳!」と叫んだ直後に足を滑らせ、アパートの階段から転落する姿も描かれている。当時は、こうしたテム・レイの変わり様が怖かったのだ。
だが、あとになってから、第1話でコロニー内部から宇宙空間に投げ出された際に、彼が酸素欠乏症にかかり、脳に深刻なダメージを負ったことを知った。
もしテム・レイが以前と変わらない状態であれば、おそらくアムロとの再会も違うものになっていただろう。変わり果てた父の様子にショックを受けたアムロが、パーツを叩きつけて慟哭するシーンが今も忘れられない……。
■「ガンダム開発」への秘めたる想い
酸素欠乏症になったあと、なおもガンダムに執着し続けたテム・レイ。彼にとってガンダムとは一体どのような存在だったのだろうか。
安彦良和氏が描いた漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、初代『ガンダム』で描かれる前のテム・レイの様子が描かれている。
地球連邦軍の会議に技術者として招かれたテム・レイは、ジオン公国軍のモビルスーツの映像を見ただけで、その脅威を即座に指摘。その直後、連邦軍のモビルスーツ開発のトップに抜擢される。
その後、ザクIとガンキャノンの戦闘を実際に戦場で見届けたテムは、さらにジオンの戦力に強い危機感を抱き、連邦軍に対しガンダム開発計画を提唱。“V作戦”の中核を担うことになる。
そしてアニメの第1話「ガンダム大地に立つ!!」へと続く。テムは自分を呼びに来た地球連邦軍の若き士官候補生「ブライト・ノア」がまだ19歳だと知ると、「ガンダムが量産されるようになれば、君のような若者が実戦に出なくとも戦争は終わろう」と語る。
その彼の机にはアムロの写真が飾られており、息子と同じ年頃の子がゲリラ戦を行っているという現状を聞いて嘆いていた。
ジオン公国軍が誇るモビルスーツを誰よりも恐れ、後れを取っていた連邦軍のモビルスーツ開発を推し進めたテム・レイ。あれほどまでにガンダム開発に心血を注いだのは、彼なりに戦争の早期終結を願ってのものだったのは間違いないだろう。