■息子・アムロとの関係性は?
アムロの有名なセリフに「殴ったね、親父にもぶたれたことないのに!」というものがある。このセリフだけ聞くと、父親のテムは仕事にかまけて子育てに無関心で、そのせいでアムロはわがままに育ったと解釈されがちだ。しかし、それは本当に正しいのだろうか。
そもそも本当に仕事一筋の人間であれば、わざわざ幼いアムロを母親から引き離してまで「広い世界を見せたい」と宇宙に連れて行かないはずだ。
それに先述した通り、アニメの第1話で描かれたテムの部屋にはアムロの写真が飾られていた。それも幼少期のものではなく、ごく最近撮影したものに見える。その些細な描写から、彼が仕事に没頭しながらも、息子のことを気にかけていたことが伝わってくる。間違いなくテムは、父親として息子のアムロを愛していたのだ。
それにアムロのほうも、機械いじりが好きなところを見ると、父の影響を色濃く受けていたのが分かる。サイド6での再会時にアムロが大きなショックを受けたのは、口にはしないが尊敬していた父の変わり果てた姿に耐え切れなかったのだろう。テムとアムロは機械いじりが大好きな、ある意味似た者同士の父子だった。
テム・レイは、戦争を一刻も早く終わらせるために、ガンダム開発に心血を注いだ優秀な技術者である。息子アムロに対する愛情も決して薄いものではなく、仕事に没頭しながらも、アムロのことをしっかり気にかけていた。
多忙ゆえのすれ違いや、多少放任する部分はあっただろうが、「仕事にかまけて家庭を顧みない冷たい父親」という評価は正しいとは思えない。1話で起こった事故以降、悲惨な運命をたどることになったが、テム・レイの本質は「家族をないがしろにする男」ではなく、息子やその同年代の子どもたちが平和に暮らせる未来のために全身全霊をかけた素晴らしい技術者であり、父親だったのではないだろうか。