あと一歩でアムロをも…『機動戦士ガンダム』ジオンが誇るいぶし銀「トクワン」という男の有能さの画像
「ガンダム・モビルスーツ・バイブル 第23号 ビグロ」(デアゴスティーニ・ジャパン)

 『機動戦士ガンダム』には、アムロやシャアといった華やかなエースパイロットの陰で、短い登場ながらも強い印象を残す脇役たちが存在する。そのひとりがジオン公国軍のトクワン大尉だ。

 モビルアーマー・ビグロのテストパイロットとして登場し、濃いあごヒゲや斜めに走る顔の傷、ドクロをあしらった角付きヘルメットが印象的。叩き上げの実力派といった雰囲気が漂う彼は、物語に深みを与えてくれる存在だった。

 そこで本記事では、トクワンの劇中での活躍を振り返りながら、彼の優秀な部分を再確認していく。

※本記事は作品の内容を含みます。

■モビルアーマーの優秀なテストパイロット

 ジャブロー戦直後の第31話『ザンジバル追撃!』で、シャア・アズナブルはホワイトベース追跡の任務を続行。大気圏内外両用艦ザンジバルに乗って宇宙へと上がる。そのザンジバルで、最新鋭モビルアーマー・ビグロのテストパイロットを務めていたのがトクワンだ。

 ビグロは熱核ロケットエンジンを2基も擁し、優れた機動性を誇る機体。圧倒的な加速力と高速機動ゆえに、搭乗パイロットには極めて高いGがかかる。

 また、ビグロはジオン公国軍初の宇宙用量産型モビルアーマーであり、今後の戦局を左右する可能性を秘めた重要な兵器だった。このビグロのテストパイロットに抜擢されたことからも、トクワンが軍内で非常に高い評価を得ていた人物であることがうかがえる。

 さらに、テレビアニメを再編集した劇場版第3作目『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』には、トクワンの有能さを示すシーンが追加されていた。

 通信でシャアとキャメル艦隊のドレン少尉が「ホワイトベースの挟撃作戦」を話し合うシーンでのこと。シャアの背後に立つトクワンはふたりの会話を聞きながら、彼らの意図を即座に理解し、シャアの命令を待たずして「第一戦闘配置だ!」と部下に指示を出していた。 

 ほんの些細な描写ではあるが、トクワンの優れた戦術眼と指揮能力が感じられたワンシーンである。

■あわやアムロに勝ちかけた?

 実際、パイロットとしてのトクワンは有能だった。2機のリックドムとともに、ビグロに乗って出撃したトクワン。迎撃に出てきたアムロのGスカイ、セイラ・マスのGブルーイージーを相手にしながら、ビグロの機動力と火力で圧倒する。

 特に印象的だったのは、アムロが放ったミサイル攻撃に対し、「ミサイルの弾幕を張るのはこういう風にやるのよ!」と余裕をみせていた場面だ。 

 この言葉通り、トクワンは卓越した操縦技術でアムロを追い詰め、カイ・シデンのガンキャノンが到着するまでの間、ガンダムに換装する隙を与えなかった。

 さらにすれ違いざまにガンダムがビグロの下部に取りつこうとしたのか、ガンダムの腕がビグロに引っかかってしまう場面がある。

 そのままガンダムは、ビグロの急加速で引っ張られるかたちになり、パイロットのアムロが気絶状態に追い込まれたのである。

 トクワンは「付属物がついたぞ」と違和感を覚えながらも、機体下部のために確認できず、その付属物がガンダムかは確信がもてずにいた。それでもトクワンは付属物をクローアームでつかみ、メガ粒子砲で破壊しようと試みる。

 だが、不運なことにクローでつかんだときの衝撃で、気絶していたアムロが目を覚ましてしまう。結局ガンダムのビームライフルを至近距離で食らい、トクワンは愛機ビグロとともに散った。

 トクワンが付属物をガンダムだと確信できていれば、もう少しやりようがあったのかもしれない。だが、このときに限っていえば「アムロのほうが運が良かっただけ」にも思えた。

 タイミングが少し違えば、トクワンは「連邦の白い悪魔」を撃墜するという、歴史的な快挙を成し遂げていた可能性も十分にあった。

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