■最期があまりにも切ない『シティーハンター』海原神

 北条司氏による『シティーハンター』(集英社)にも、育ての親がいる。それが冴羽獠の宿敵となる海原神だ。

 海原は麻薬組織ユニオン・テオーペの総裁で、悪魔の薬「エンジェル・ダスト」によっていろんな人間を死に追いやった悪党でもある。そんな悪の親玉のような海原と獠が親子とは思えないかもしれないが、まぎれもなく彼は獠の育ての親だ。

 獠は幼い頃に事故で両親を亡くし、その時に記憶も失って海原に拾われることになる。海原はその時から獠を育て、戦場でともに戦うことになった。

 戦場では常に死と隣り合わせ……もちろん幼かった獠も命の危険にさらされる。そんなある日、獠が敵の部隊に囚われてしまい絶体絶命となった時、海原は見捨てることなく救出に向かった。そして、逃亡の際に海原は左足を失うことになる。自らを犠牲にしても獠のことを守ろうとしているのが、このエピソードだけでひしひしと伝わってきた。

 しかし、海原は獠にエンジェル・ダストを投与して試験をしたり、間接的に獠の相棒である牧村秀幸を殺させたりした外道だ。獠のことを大切にしていたのに何故?と思ってしまうが、それは多くの戦争を経験して心が壊れてしまったのが要因なのかもしれない。

 獠も「一歩まちがえばそれはおれだったのかもしれない」と語るように、海原は戦争の犠牲者だった。だからこそ、獠の手で最期を迎えることになって、人間として死ねると喜ぶシーンは感動的である。

 

 真っ直ぐすぎる育ての親たちは、その子の未来を願うからこそ、全力でぶつかっている。それが後にその子の生き方にも反映されているから、与えている影響は半端ではないと思う。

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