
漫画やアニメにはいろいろな悪役キャラが登場し、主人公たちを苦しめる。しかし、そういうキャラは最初から悪だったのかと見てみると、意外な事実が分かるパターンも多い。
おもな理由としては過去の境遇にある。生まれながらの悪人というのはなかなかいないのだろう。その中には、思わず同情したくなるような絶望を味わったからこその変貌を遂げている者もいる。
そこで今回は、いろいろなキャラの闇堕ちした理由を紹介していこう。悪には変わりないかもしれないが、理由を知るとそのキャラの見方が変わるかもしれない。
■愛する人のために…『新世紀エヴァンゲリオン』碇ゲンドウ
『新世紀エヴァンゲリオン』は、「人類補完計画」という壮大な計画のもとで動いていくストーリーである。その中で、すべてを知っていて裏で糸を引いているのが碇ゲンドウという男だ。
ゲンドウは、それまでずっと知人に預けていた息子のシンジを呼び出すと、いきなり正体不明の敵である「使徒」と戦わせた。シンジはわけもわからないまま、エヴァンゲリオン(EVA)という乗ったこともない兵器に乗せられ、何度も生死の境をさまようことになる。
ゲンドウは、自分に好意を寄せていた赤木リツコやその母親であるナオコを利用するだけ利用してポイ捨て。シンジのクラスメイトである鈴原トウジが使徒に侵食されたEVAに乗っていても、そんなことお構いなしでシンジに攻撃させるなどかなりの非道ぶりである。
そんなゲンドウはそこまでして何を果たそうとしていたのか? という疑問は、実は闇堕ちした原因にも関係していた。
ゲンドウが生涯で唯一愛したのが碇ユイという女性である。ゲンドウの人生においてユイとの出会いは衝撃的なもので、彼にとって彼女はすべてだった。
しかしそんなある日、ユイがEVA初号機の実験中、EVAのコア(魂)に取り込まれて姿を消してしまう事件が起こる……。これにゲンドウは絶望し、どんな手を使っても彼女を取り戻したいという歪んだ考えを持つようになる。
そこで打ち出したのが人類補完計画だった。人類を個体からひとつの完璧な生命体へと進化させ、その中でユイと再会して永遠に生きていこうと考えたのだ。
ゲンドウの身勝手な計画のせいで多くの人間が犠牲となり、シンジは人類すべての命運を託される羽目になる。その選択は旧劇場版では無慈悲に思えたが、新劇場版では親子の対話もきちんと描かれていたので、どこか救われた気もした。
ユイとの再会のことだけを考えて周りが見えなくなっているゲンドウは、まるで愛に飢えている子どものようだった……。
■最後の最後に全力を出せた『うしおととら』秋葉流
藤田和日郎氏による『うしおととら』(小学館)にも闇堕ちキャラがいる。それが蒼月潮にとって心強い味方だった秋葉流だ。
秋葉は、光覇明宗の僧侶として白面の者と戦う側の存在である。しかし、途中で敵側につき、とらとの戦いを望むことになる。これには潮も読者もどうして急に裏切ったのかはじめはまったく理解できなかったはずだ。そんな突然の心変わりの理由は、秋葉の過去にある。
秋葉はいわゆる「天才」で、昔から勉強、スポーツ、何をやらせてもあっさり一番になることができた。これだけ聞けば恵まれた人間に思えるかもしれない。しかし秋葉はそのせいで周囲からの嫌がらせを受け、本人だけでなく家族までその巻き添えになってしまう。
そんな境遇から、自分は本気を出してはいけない、熱くなってはいけない、と思うようになった秋葉……。こうして無気力になってしまった秋葉を変えたのが、大妖怪のとらという存在だ。
秋葉は、とら相手なら初めて全力を出し切ることができると思った。だから白面の者の使いの言葉にあえて乗り、潮たちと敵対することを選択したのだ。
そんな秋葉の願いを叶えるかのように、とらは全力で秋葉と戦った。そして、全力で臨んだ秋葉だったが、とらにはこれまで培った力や技がまるで通用しない。
すべてを出し切った……。そんな様子で力尽きた秋葉は、とらに「手加減をしたのか?」と質問する。それに対してとらが、力の出し惜しみをしていないと答えたので、秋葉は満足できたようだ。そのまま息を引き取るシーンはかなり泣けてしまう。
潮は秋葉の死をきっかけにとらと仲違いをしてしまったので、それだけ秋葉の存在は大きかった。できたら、最後まで潮と一緒に白面の者と戦ってほしかった。