■寄りそい生きる者の正体とは…『寄生獣』

 1988年に『モーニングオープン増刊』(講談社)にて連載が開始された岩明均氏の『寄生獣』は、「パラサイト(寄生生物)」によって肉体を乗っ取られた人間たちの戦いや葛藤を描いたホラーSF作品だ。

 社会のなかに人ならざる者が潜む恐怖や、人間が捕食・殺害される衝撃的な展開。そんな非日常のなかで、主人公・泉新一の右手に宿ったパラサイト・ミギーとの交流を経て価値観や死生観をぶつけ合っていく本作。

 タイトルの『寄生獣』は、そのまま作中に登場する「パラサイト」を指す単語と捉えていた読者も多いだろう。しかし、その思いがけない意味合いは第55話「寄生獣」での一幕で明らかとなる。

 敵対勢力のボスで人間を減らすことを目論む広川剛志だが、彼は地球に生きる人間たちがいかに身勝手な存在なのかを語り始める。そして最後に、彼は人間たちこそが地球にとっての害悪であることを指し示すため、「人間に寄生し生物全体のバランスを保つ役割を担う我々から比べれば 人間どもこそ地球を蝕む寄生虫!!」「いや……寄生獣か!」と、渾身の一言を放つのだ。

 パラサイトたちからすれば、地球に生き、そのうえで多くの物を破壊し続ける我々人間こそが星に“寄生”する“獣”だったということだ。なんとも衝撃的なタイトル回収だが、実はこの「寄生」という言葉は物語の終盤でも再登場している。

 戦いを終えて日常を取り戻しつつあった新一だが、彼は激闘を繰り広げてきた多くの存在を思いながら「みんな地球で生まれてきたんだろう? そして何かに寄りそい生きた……」と呟く。

 パラサイトから見た人間の“寄生”。そして新一が辿り着いた“寄りそい生きた”というそれぞれの答えに、思わず考えさせられてしまうタイトル回収であった。

 

 漫画を指し示す「顔」ともいうべき「タイトル」だが、紹介してきたように思いがけない意味合いが込められていることも多い。

 名作漫画のなかには、作中でそのタイトルの真の意味合いが解き明かされることも多く、予想だにしなかった展開に読者は驚かされたことだろう。

 はたしてこの言葉にはどんな意味が隠されているのか……物語の内容もさることながら、タイトルの裏に潜む伏線に思いを巡らせながら漫画を読むのもまた一興ではないだろうか。

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