アニメ『機動戦士ガンダム』は、それまでの主流だった勧善懲悪のロボット作品とは異なり、それぞれの陣営の政治的背景や生々しい内情まで描かれていた。そして作品の舞台となる戦争描写もリアルで、主だったキャラクターが唐突に戦場で散ることも珍しくない。
ガンダムシリーズでは、「強敵と刺し違えた者」「身を盾にして仲間を守り抜いた者」など、視聴者の心に残る印象的な最期を迎えたキャラも多い。しかし、なかには壮絶な最期を遂げたと思いきや、実は死んでおらず、まさかの生還をはたして視聴者を驚かせたキャラもいた。
今回はそんなキャラたちが、どのようなかたちで生還したのかを振り返りたい。
■愛と信念を貫き通した男
まずはOVA『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』の主人公である「シロー・アマダ」から紹介しよう。シローはジオン軍が行ったコロニーへの毒ガス攻撃により、家族や友人を失うという過酷な過去を持つ。ジオンへの憎悪を抱き、連邦の軍人となった人物だ。
しかしシローは、戦場で出会ったジオン軍の美しい女性「アイナ・サハリン」に惹かれ、やがてふたりは心を通わせる。連邦軍人としての使命と、愛する女性の狭間で板挟みになって苦悩しながら、自らの戦う理由を見出していくストーリーだ。
そして最終決戦では、アイナの兄である「ギニアス・サハリン」が開発した巨大MA「アプサラスIII」を阻止するため、シローとアイナのふたりで「ガンダムEz8」に乗り込む。
Ez8はアプサラスIIIに突撃し、ギニアスが乗っていたコクピットを叩き潰すが、ほぼ同時に発射されたアプサラスのメガ粒子砲がEz8の下半身を消し飛ばしてしまう。
そのまま2機は火口に墜落し、ほどなく大爆発を起こす。大きな山を揺るがすほどの爆発のあと、戦争が終結したというナレーションが入り、シローとアイナの生存は絶望的に思えた。
しかし最後に左足を失ったシローと、彼を支えるアイナの影が映し出され、生存を示唆するかたちで物語は幕を閉じた。
そして続編となる『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ラスト・リゾート』では、シローとアイナが山奥の小屋で平穏に暮らしている姿が描かれている。
劇中でのガンダムEz8の悲惨な姿とアプサラスIIIの大爆発を見るかぎり、ふたりが生きていたのはまさに奇跡といえるだろう。
■不可能を可能にした男
続いて驚きの生還をはたした人物は、アニメ『機動戦士ガンダムSEED』シリーズに登場した「ムウ・ラ・フラガ」だ。彼は主人公「キラ・ヤマト」の仲間であり、ときには彼を導く先輩として、自ら「不可能を可能にする男」を名乗って戦った。
『SEED』における最終決戦では、黒幕の「ラウ・ル・クルーゼ」の攻撃を受け、ムウの機体は中破。母艦である「アークエンジェル」に帰還しようとするが、アークエンジェルを狙った艦砲射撃を身を挺して受け、「へへ、やっぱ俺って不可能を可能に……」の言葉とともに機体は爆発四散した。
ムウのヘルメットが宇宙空間に漂流する様子も描かれ、仲間と愛する者を守って散ったと誰もが思ったことだろう。
しかし、続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』では、ムウが奇跡的に生存していたことが判明する。瀕死のムウが宇宙を漂流していたところを回収され、記憶を改ざんされて「ネオ・ロアノーク」を名乗り、キラたちの敵として再登場を果たしたのである。なお、のちにムウは記憶を取り戻し、キラたちと一緒に終戦まで戦い抜いた。
ちなみに『SEED』の再編集版やHDリマスター版では、宇宙空間を漂うムウのヘルメットの描写は削除されている。数々の不可能を可能に変えてきたムウは、ついに自らの死の運命まで変えることに成功したのだ。