トラウマ級のひどすぎる経験が原因に…『週刊少年ジャンプ』漫画の敵キャラが闇堕ちした「同情したくなるほど残酷なワケ」の画像
ゼノンコミックスDX『北斗の拳【究極版】』6巻(徳間書店)

 漫画には闇堕ちキャラというものが存在する。闇堕ちとは、善良な人が道を踏み外して悪者になってしまうことだ。

 闇堕ちする原因は、トラウマ級の壮絶な体験がきっかけとなっている場合が多い。そして、自分が悪いことをしていると分かっていても歯止めがきかない……。だが、心のどこかでは罪悪感もある。

 そんな闇堕ちキャラの原因を見ていくと、変貌しても仕方がないと感じてしまうほど衝撃的な出来事ばかりだ。そのため、一概にそのキャラを悪と決めつけることもできない。

 そこで今回は、思わず同情してしまう闇堕ちキャラを生み出した原因を紹介していこう。

■愛する存在を手にかけてしまった『北斗の拳』サウザー

 まず紹介したいのは、原作:武論尊氏、作画:原哲夫氏による『北斗の拳』に登場するサウザーである。

 サウザーは南斗鳳凰拳の伝承者で、将星の宿命を背負いケンシロウに敗北を味わわせた敵キャラだ。その強さは本物で、自らが王たる存在であると疑わない。そのため弱い人間がいくら犠牲になっても心が揺らぐことはなかった。

 そんなサウザーだが、生まれながらに非情だったのかというとそうではない。師匠であるオウガイに愛情をたくさん注いでもらい、すくすくと健やかに成長していたのだ。そんなサウザーを大きく変えたきっかけが、伝承者への試練である。

 オウガイはサウザーに目隠しをさせ、「これからおそいかかる敵を倒せ」とだけ話す。そんなオウガイの期待に応えるかのように、サウザーはその敵に致命傷を与えた……が、なんとその「敵」とはオウガイだったのだ。

 南斗鳳凰拳を伝承するためには、伝承者を倒して越えていく強さを持たなければならない。オウガイは、その事実を伝えてしまえば心優しいサウザーが自分を倒せないと思ったのだろう。だからこそ、あえて目隠しをして全力で倒せと指示したのだ。

 結果として自身の手で愛する存在の命を奪ってしまったサウザーは絶望し、「愛などいらない」という考えから愛を恐れて遠ざけるようになってしまう。

 しかし、激闘の末にケンシロウに倒されると、オウガイの亡骸のもとで「お師さん… む…むかしのように…… もう一度ぬくもりを…」と涙を流しながら息を引き取った。愛を拒む姿勢を貫き続けたサウザーは、実は誰よりも愛を求め飢えていたのである。

 このシーンには、敵ながら同情してしまう。ケンシロウが話す「哀しい男よ だれよりも愛深きゆえに」という言葉にも心打たれた。

■人間の醜悪さに絶望した『ダイの大冒険』バラン

 次は監修:堀井雄二氏、原作:三条陸氏、作画:稲田浩司氏による『DRAGON QUEST ーダイの大冒険ー』のバランについて見ていこう。

 バランはたぐいまれなる戦闘力や魔力を誇る「竜の騎士」で、ダイの父親だ。彼はある日深手を負い動けなくなっているところを、アルキード王国の王女・ソアラに助けられ、心を通わせていく。彼が闇落ちするきっかけは、そのソアラの死である。

 突然やってきた「よそ者」、おまけに人間ではない者に王位を奪われるのを恐れた家臣たちは、バランを城から追放。しかしバランを愛するソアラは、王女という立場を捨てて彼と逃げ、つつましくも幸せな生活を送ることを選ぶ。

 しかし、王たちはそれすらも許さなかった。ふたりの居場所を突き止め、武装して取り囲んだのである。バランは愛する妻と息子を守りたいという思いから、彼らの安全の保証を約束させたうえで降伏し、処刑も甘んじて受け入れた。

 そうしてやってきたバランの公開処刑当日。バランに向かって炎が放たれた瞬間、なんとソアラが割って入り彼をかばって命を落としてしまう。おまけにソアラの父親である王は、愛する者のため命を捨てたソアラを「恥さらし」とまで言ってのけるのだ。

 バランはダイの敵として登場するが、ある意味好敵手のような存在である。口にこそ出さないが、どこかダイたちに希望を抱いているようにも見えた。それは、愛するソアラのためにもダイたちに世界の未来を託したかったからなのかもしれない。

 父親として、夫として、いろんなものを失ったバランの過去はあまりにも悲しすぎる。できれば、ソアラやダイと一緒に仲良く暮らしていてほしかった。

  1. 1
  2. 2