■昔のひどいおこない、人間の業の深さにもショックを受けた『火の鳥』
“漫画の神様”と称される手塚治虫さんのアニメも、トラウマになるようなシーンは多い。手塚さんの作品は哲学的なテーマを多く含み、その深さゆえに子どもにはショッキングに映る場面があった。たとえば1986年に公開された『火の鳥・鳳凰編 』のアニメ映画がそうだ。
本作の主役は2人。我王は幼少期に左腕と右目を失っており、生きるために盗みと人殺しを重ねた男だ。その後、多くの出会いにより怒りを糧に彫物師としての才能を開花させる。
そしてもう一人の男・茜丸は、権力者の支援を受けながら大きな仕事をおこなう彫物師だ。対照的な人生を歩む二人の彫物師は、やがて火の鳥の彫物制作で技を競う……というストーリーとなっている。
彫物制作の対決で、茜丸は帝の後ろ盾を得て辛くも勝利する。しかし我王の実力を恐れた茜丸は、彼の過去の罪を理由に訴え、彫物師として生きられないよう我王の右腕を切り落とすよう願い出る。その結果、我王は捕らえられ、刀で右腕を切り落とされてしまうのだ。
我王の見開いた目の描写とともにボトリと落ちる右腕。這いつくばる我王のもとに残される大量の血痕……。昔の人々がおこなった残酷な行為に、強いインパクトを受けたシーンである。
また、右腕を失い苦しむ我王の姿を見て“これで邪魔者はいなくなった”と高らかに笑う茜丸の姿にも強い衝撃を受けた。登場当初は穏やかな人格者だった茜丸が、権力を手にすることで次第に変わっていく姿もショックだった。
『火の鳥』は描写のショッキングさだけでなく、登場人物たちの非情さや人間の業を描き出している。いろいろな意味で心に深い傷跡を残す作品だった。
子どもの頃に衝撃を与えた、トラウマシーンの数々。幼少期はつい体が固まってしまうほどの衝撃があった。その一方で、怖さを通じて「こうなりたくない」「他人に同じ行動をしてはいけない」と学ぶ機会にもなったように思う。
今の『鬼滅の刃』や『【推しの子】』といった人気作品にも、なかなかのショックなシーンが登場する。現在の子どもたちが体験するトラウマシーンはどのようなものなのか、機会があればぜひ聞いてみたいものである。