桜木花道をはじめ、クセの強い人物が集まる湘北チームの中で、潤滑油のような役割を果たしていた名脇役、メガネ君こと木暮公延。実力ではレギュラーメンバーにやや劣るものの、温厚ながらバスケに対する想いが誰よりも熱い彼は、副キャプテンとして皆を支えるかけがえのない存在だった。
チームを愛し、高校バスケに青春のすべてをぶつけていた木暮からは、しばしば心に刺さる名言が生まれている。今回は、井上雄彦氏のバスケ漫画『SLAM DUNK』より、湘北のシックスマン・木暮が発した名セリフを振り返ってみたい。
■バスケを愛するがゆえ!三井の心に刺さった木暮の想い
赤木剛憲とともに、“湘北のアメとムチ”になっていた木暮。揉め事とは縁遠い穏やかなタイプであり、声を荒げたりする場面も少ない。だが、三井寿らによるバスケ部への乱入事件が描かれた8巻で、そんな木暮が怒りを露わにするシーンがあった。
バスケに未練を持ちながらも戻るきっかけが掴めず非行を繰り返していた三井は、あるとき、宮城リョータに因縁をつけて仲間の鉄男らとともにバスケ部に殴り込みをかけた。部のために我慢していた桜木らだが、最終的には乱闘に発展。
木暮は、三井にメガネが吹き飛ぶほど強く突き飛ばされても毅然とした態度で、「大人になれよ…三井…!!」と諭す。メガネを外したイケメンな素顔が衝撃的なうえ、冷静沈着な大人の対応に痺れる名シーンだ。
さらに木暮は、三井の中にくすぶるバスケへの想いを悟りまたやろうと誘うが、三井は頑なに態度を変えず「バスケなんて単なるクラブ活動じゃねーか!! つまんなくなったからやめたんだ!! それが悪いか!!」と悪態をつく。
その言葉を聞いた木暮は、「お前は根性なしだ…三井…ただの根性なしじゃねぇか…根性なしのくせに何が全国制覇だ…」と彼の胸倉を掴み、「夢見させるようなこと言うな!!」と感情を露わにする。
赤木、三井とともに「全国制覇」の夢を追いかけてきた木暮にとって、三井の発言は許せないものだった。三井はその後、安西先生を見て溜め込んでいたものが爆発し、同作屈指の名言である「安西先生…!! バスケがしたいです…」を発するが、そうなったきっかけは夢のために切磋琢磨してきた木暮の真っ直ぐな言葉だったのだろう。
■「泣かすなよ…問題児のクセに…」ギリギリの攻防を繰り広げた陵南戦!
名試合の一つ、インターハイ進出をかけた陵南戦。仙道彰、魚住純という名プレイヤーを有する陵南高校は湘北にとってかなりの強敵である。
桜木は試合目前に、赤木指導のもとシュート練習に励んでいた。その様子を見た木暮も練習に参加。「オレは3年だから…これが最後だからな もしIHに行けなかったら…あさっての陵南戦が最後だ」と言い、「あと三日で引退だ 悔いは残したくない」と試合にかける想いを語り、桜木の心を揺さぶった。
当日、陵南相手に湘北は一進一退の攻防を繰り広げた。だが、大事な場面で3ポイントシューターの三井がスタミナ切れでコートを去ってしまう。ここで代わりに入ったのが木暮。だが陵南の名将・田岡監督は彼を過小評価し、完全に視野に入れていなかった。
ヒリヒリした勝負を展開し、湘北の1点リードで迎えたラスト1分。田岡監督が「湘北の不安要素」と見ていた桜木がパスカットに成功し、ノーマークの木暮にボールを回す。
赤木の「木暮フリーだ うてっ!!」の言葉で、木暮は渾身の3ポイントを打つ。最高のシチュエーションの中放たれたボールは美しい弧を描き、ゴールネットを揺らす。木暮のこれまでの努力が、最高の形で実を結んだ瞬間だった。
そして、この得点が決め手となり70-66で湘北が勝利を飾る。試合後、桜木は木暮に「メガネ君 引退がのびたな この天才のおかげで!」と粋な言葉をかけ、それを聞いた木暮は感極まりながら「泣かすなよ…問題児のクセに…」という名言を残した。
田岡監督の「あいつも3年間がんばってきた男なんだ 侮ってはいけなかった」という木暮への称賛、中学の頃から木暮を見てきた赤木晴子が流す静かな涙、木暮ら3年生の想いを知り全身全霊で挑んだ桜木と最後まで諦めなかった両チームのメンバー。すべてが感動を呼ぶ素晴らしい名場面だ。