昭和生まれであれば、テレビ朝日系列で放送されていた水曜スペシャル『川口浩探検シリーズ』をご存じの人も多いだろう。これは、俳優・川口浩さんを隊長とした「川口浩探検隊」が、アマゾンの秘境や洞窟を探検し、猛獣やUMAなど未知なる物を探すといった番組だ。1970年代後半〜80年代半ばに放送され、当時の子どもたちを中心に絶大な支持を得た。筆者も同番組に夢中になり、想像力を育んでくれたと感じている。
今回は『川口浩探検隊』がどのような番組であったのか、思い出とともに振り返りたい。
■スマホのない時代だから面白かった、川口浩とは何者?
まずは『川口浩探検隊』がどのような番組だったかを振り返ってみよう。
本番組は川口さんをリーダーにした男性探検隊が活躍する様子を収めている。彼らは世界中に出向き、伝説の生物や、まだ足を踏み入れたことのない秘境で冒険していく。
当時まだ幼かった筆者は、この番組をよく家族で視聴していた。姉と一緒にドキドキしながら食い入るように見ていたものの、父親は「こんなの嘘だ」なんて言って、いつも半笑いで見ていた記憶がある。
『川口浩探検隊』といえば、番組冒頭のタイトルがすごかった。
たとえば、『恐怖! 双頭の巨大怪蛇ゴーグ! 南部タイ秘境に蛇島カウングの魔神は実在した!!』や、『謎の原始猿人バーゴンは実在した! パラワン島奥地絶壁洞穴に黒い野人を追え!』などは、当時の子どもたちに恐怖と興味を与えるほどのインパクトがあった。
現在であれば「巨大怪蛇ゴーグって何?」とスマホで検索し、存在の有無を確認することもできるだろう。しかしまだネットのない時代にその信憑性を確かめる術はなく、筆者も含め、番組で紹介された内容をそのまま受け止める人も多かったのではないだろうか。
ちなみに当時見ていた筆者は、川口さんのことを“冒険家”だと思っていた。しかし川口さんはもともと俳優やタレントとして大活躍していた人である。今、見返してみると、川口さんの鬼気迫る雰囲気が当時の子どもたちのドキドキをより高めたようにも思う。子どもにとってこの番組は、まさに「リアルなドキュメンタリー番組」だったのだ。
■ナレーションのインパクト、赤字のテロップも演出効果抜群
ここからは『川口浩探検隊』がどのような内容だったのか、振り返ってみよう。取り上げるのは「謎の原始猿人バーゴン」の回である。
まず、「謎の原始猿人バーゴン」が紹介されている外国の新聞記事が登場する。当時のブラウン管テレビは画像が悪く、モノクロの新聞に載っているバーゴンはさらに見えにくかったであろう。それがかえって子どもたちに恐怖を与えていた。
その後、バーゴン発見を目指して秘境のジャングルへと向かう川口探検隊。隊員のなかには現地在住の外国人も参加しており、それがまたリアリティと緊張感を醸し出している。
ジャングルに向かうトラックの荷台には大勢の人々が乗り込んでおり、砂埃をあげながらトラックが走り抜けていく物凄いスピードに驚かされる。今、振り返るとまさに昭和の時代を象徴するような光景だ。
やがて日も暮れてきたので、キャンプの準備をする隊員たち。そのとき隊員の1人が「川口さん、何か見えますよ!」と叫ぶ。指さす方向を見ると丘の上に謎の人影が……。そして「はたして我々の探し求める猿人なのであろうか!?」という緊迫したナレーションが入るのだ。
『川口浩探検隊』は、川口さん自身が登場するものの、番組の進行を支えたのは声優・田中信夫さんのナレーションである。彼のシリアスでよく通る声は、番組に欠かせない存在だった。
「と、その時である!」「だが我々は見た!」「いったい誰がこのような罠を!?」といったフレーズは緊張感を高め、視聴者を一瞬たりとも画面から目を離せなくさせた。
さらに、オープニングに登場する赤字の大きなテロップは圧倒的なインパクトを放ち、それを目にした瞬間から“最後まで見届けたい”と思わせる力を持っていた。
このように本作は、ナレーションと演出の巧みさが視聴者を魅了した番組であった。