『週刊少年ジャンプ』にて、1993年から連載されていた真倉翔氏(原作)と岡野剛氏(作画)による『地獄先生ぬ~べ~』は、ぬ~べ~こと童守小学校5年3組の教師・鵺野鳴介が鬼の手を駆使して妖怪や悪霊と対峙するオカルトアクション漫画だ。1996年から97年にかけてテレビアニメも放送された同作は、2025年夏にテレビ朝日系で再びアニメ化。26年ぶりとなる新作アニメの放送は、大きな注目を集めている。
本作では恐ろしい怪異が次々と描かれる中、お色気シーンも頻繁に差し込まれていたため、ドキドキしながらページをめくったという読者も多いはず。セクシー&ホラーが印象的ではあるものの、時に感動的なエピソードが描かれ、そのたびに「泣ける」と話題に上がるのも『ぬ~べ~』の魅力だ。今回は、そんなほっこりエピソードを振り返ってみよう。
■広と母の絆に涙…「前世の記憶の巻」
数あるエピソードの中でも、「前世の記憶の巻」はファンからの感動するという声が多く寄せられる、タイトル通り「前世の記憶」をテーマにした一本。
幼少期に母親を亡くした立野広は、あるとき道端で幼稚園児に呼び止められる。かとうれいこ(アニメはひながたれいこ)と名乗るその女児は、「おまえのお母さんだよ」と、自分を広の母親だと言う。ぬ~べ~が鬼の手で探ると、彼女は本当に輪廻転生した母だった。
だが、思春期真っただ中の広は素直になれず、アレコレ世話を焼いてくれる母に悪態をついてしまう。
そんな中、ぬ~べ~はこのままだと本来のれいこの人格にとってよくないことを危惧し、彼女から前世(広の母)の記憶を消すことを提案する。れいこは「一言“お母さん”て呼んでほしかった」と言いながらも、本来のれいこ親子のために記憶の消去を受け入れた。
別れの前に母と話したかった広だったが、ぬ~べ~により母の記憶は消えてしまっていた。そして広は泣きながら母への想いや亡くなってからの寂しい気持ちを吐露し、「母ちゃん」と呼ぶ。するとその想いに応えるように母の幻が現れ、二人は本当の再会を果たすのだった。
親子の切ないすれ違いに胸が苦しくなるとともに、絆の深さに涙腺崩壊必須の同エピソード。最後に本来のれいこが“広のような子を産みたい”と言っていたところを見ると、母の記憶は消えてもどこかで繋がりは残っているのかもしれない。
■生きる意志と悲しい記憶が悲劇的な結末に繋がる「反魂の術の巻」
「反魂の術の巻」は、登場人物が2人だけというシンプルな構成ながら、読後にほんのり切なさの残る一本だ。
遠足の下見で山の中を散策するぬ~べ~は、助けを求める死者の声に導かれ廃坑へ向かうと、崩落によって閉じ込められてしまう。窮地に陥ったぬ~べ~は救助を待って耐えるが、閉鎖空間での孤独に精神がやられてしまい、葛藤しながらも話し相手を求めて白骨死体に反魂の術を使う。
蘇ったのは杉田琴美。彼女は明るい笑顔でぬ~べ~の孤独を癒やした。ぬ~べ~もまた、そんな彼女を見て禁忌への後悔を断ち切って彼女を生かすと覚悟を決める。
ついに出口を見つけ、外に出るぬ~べ~。しかし琴美は、一緒に行けないと泣きながらお礼を言う。実は、自分の遺書を見つけ“恋人の後追い自殺をした”という生前の出来事を思い出してしまったのだ。
絶望した琴美は、「生きるんだ…生きる気力を… 失うな」という説得も空しく白骨死体に戻ってしまう。琴美の骨を前にぬ~べ~は「人が命を与えてはいけないというのか ばかやろう!!」と神に怒りをぶつけると、「おれは… 生きるぞ…」と歩みだすのだった。
反魂の術が神への冒涜と理解しながらも、目の前の命を生かそうとしたぬ~べ~の行動に、考えさせられてしまうエピソードだった。
■可愛くて優しい座敷わらしに涙「座敷童子の悲しき過去の巻」
登場キャラの中でも群を抜いてかわいい妖怪・座敷童子の生い立ちが明かされた「座敷童子の悲しき過去の巻」も、胸を打つエピソードだった。
あるとき、栗田まことの家に座敷童子が住み着き、嬉しい出来事が起こるようになる。次の家へと旅立つ座敷童子の後を追うと、ある屋敷の仏壇に飾られた童子そっくりな少女の写真を見つめていた。家主の老婆に話を聞くと、彼女は50年前に死んだ春子という娘だった。
生前の春子は、戦時中にも関わらず食糧を人々に分け与える心の優しい子だった。しかし重度の肺炎で誕生日に命を落としており、人の幸せを願う心が座敷童子へと生まれ変わっていたのだ。
春子の母である老婆から座敷童子の過去を聞かされたまことは、「人にばっか幸せを与えて自分は不幸だなんて」「座敷童子を幸せにしてやるのだ」とぬ~べ~に頼む。そしてまことは後日、「50年前の誕生日のつづきをやるのだ」と、みんなで豪華なパーティーを開く。まこと以外に彼女の姿は見えないが、クラッカーで祝われ、驚きの表情を見せる座敷童子の姿がとびきり可愛らしいシーンだ。
だが、座敷童子は生前の記憶をすっかり無くしていたため、母を認識することはできなかった。老婆は50年前と同じ服装と髪型でパーティに参加したが、それでも座敷童子は母のことを思い出せず。そこでぬ~べ~は鬼の手で50年前の母の精神を幽体離脱させる。それでようやく母娘は感動の再会を果たし、座敷童子は「おかあちゃんおかあちゃん 幸せだあ…」と涙を流して喜ぶのだった。
健気な座敷童子に訪れた大好きな母との再会に、涙した読者は多いだろう。だが春子は今や座敷童子。感動の再会も束の間、人々を幸せにするために飛び出していくのだった。