松本零士さんの『銀河鉄道999』は、主人公・星野鉄郎と、謎の美女・メーテルが銀河鉄道999号に乗り、さまざまな星を訪れて冒険をする物語だ。
銀河鉄道のルールでは各駅の停車時間は“その星の1日”と定められているのだが、鉄郎たちが立ち寄る星は地球とは自転の速度が異なるため、停車時間が予想以上に長くなる星もある。その多くは1日程度の滞在で済むが、星によっては2週間程度滞在しないと出発できない駅もあるのだ。
今回はそんな「停車時間が長すぎる星」に焦点を当て、その長い滞在中で鉄郎たちがどのように過ごしたかを紹介したい。
■トラブルに巻き込まれるも人情に助けられる「明日の星」2週間
コミックス1巻に登場する「大四畳半惑星の幻想」にて、“明日の星”に到着した999号。この駅の停車時間は2週間。鉄郎たちはこの星で長期滞在にふさわしいともいえるトラブルに遭う。
地球によく似た“明日の星”に降り立った鉄郎とメーテルは、地球では貴重品とされていた“ラーメン”を食べる。その味に感動し、幸せな気分になった2人は安心しきって外でうたたねをし、その間にパスを盗まれてしまうのだ。
途方に暮れる鉄郎とメーテルは、不動産屋で紹介されたボロアパートで生活しながら、2週間の停車期間内にパスを盗んだ犯人を探していく。そのアパートには足立太という青年が住んでおり、鉄郎は彼と親しくなる。またアパートの大家も2人を気にかけ、食事を差し入れるなど、人情味あふれる人たちが次々と登場する。最終的に鉄郎とメーテルはパスを盗んだ青年を見つけ、事情を知った鉄郎は彼を許すのであった。
パスが盗まれるトラブルは起きたものの、“明日の星”に住む人たちの優しさに助けられたこのエピソード。鉄郎はのちに「あの星の明日はきっとすばらしいよ」と笑顔で語り、メーテルも「定期が返ってこなかったほうが 私たちもしあわせだったかもね」と言っている。
2週間の滞在期間に、人の温かさや優しさに触れたほっこりするエピソードであった。
■とんでもない印象工作「ざんげの国」2週間と6時間21分32秒
コミックス4巻「ざんげの国」にて、清らかで正しく美しい人が集まるといわれる“ざんげの国”に停車した999号。ここでの滞在時間は2週間と6時間21分32秒と、非常に長く、なおかつ中途半端な時間である。
鉄郎、メーテル、そして休暇をもらった車掌の3人がこの星に降り立つが、車掌が強盗に襲われたのを皮切りに、鉄郎とメーテルも何者かに連れ去られてしまう。その後、2人は記憶を消されそうになるが、メーテルが危険を察知しておこなった反射剤の処置により、記憶を消されることを免れた。
この星では、ここに訪れた旅人に“清潔で清らかで正しくて美しい人々の星”という印象を無理やり植え付ける工作が行われていた。それをおこなう清潔管理局の人たちは執拗に記憶を消そうと鉄郎たちを追い回すが、結局失敗に終わる。
星を発つときメーテルは、“さようなら、清く正しく美しく、ウソでぬりかためた いつわりの星にすむ聖人さんたち”と言い、「生涯……その『地獄』で暮らしなさい」と憤る様子を見せている。
他人に“清らかな星”という印象を強要し、記憶を消すことまでして良いイメージを作り上げようとするその執着に恐怖を覚える。
物語の最後には「もし聖人ばかりの世界があるとしたら、そこはたぶん『地獄』という名で呼ばれるだろう……」という解説が添えられている。この言葉が示す通り、偽りの清らかさを追求することの虚しさが際立つ結末であった。