■数奇な物語に込められた恋愛模様と微妙にすれ違う兄妹愛
また、本作は表題となった『笑う大天使』本編の後に、3人それぞれにスポットをあてたスピンオフ作品が発表されている。そのどれもがファンの涙を誘う名作だ。
和音の家庭を描いた『空色の革命』では、両親の不仲の原因がちょっとした言い間違いだと判明する。3人もの愛人を囲う父親も大概だが、一方の母親も「妾宅廻り」と称して夫の愛人宅に毎年のごあいさつを欠かさない。かなり怖いシチュエーションにも思えるが、本作ではクスッと笑えるのが不思議である。
和音は幼い頃から父親が雇った秘書兼養育係の若月俊介に育てられ、両親よりも密接な関係を築いてきた。ところが、俊介よりもさらに年上の御曹司が和音に縁談を申し込んだことで、ふたりの関係が大きく動き出すという展開が描かれる。
続いて柚子をメインとしたスピンオフ『オペラ座の怪人』では、「聖ミカエル」の担任のロレンス先生とのイギリス旅行が描かれている。
商店街の福引でイギリス旅行を当てた柚子は、担任のロレンス先生の帰郷に合わせて、彼の実家がある田舎に行くことに。流ちょうな日本語を話すロレンス先生は国語の教師で、「聖ミカエル」初代理事長のひ孫で現・理事長、さらにイギリスに大豪邸を持つ貴族という、てんこ盛りの肩書を持つ。
そこで柚子は、ロレンスの友人であるドイツ人のオペラ歌手“ハル”こと、ラインハルト・フォンベルンシュタインと、動くクマのぬいぐるみ“ルドルフ”と出会う。
この概要だけ聞くと何のことやら意味不明かもしれないが、あらためて筆者も不思議な物語だと感じる。しかし、ロレンス先生とその旧友たちの絆と別れを描いたストーリーには、何度読み返しても泣かされてしまうのだ。
最後は、史緒とその兄・一臣の関係を描いた『夢だっていいじゃない』というスピンオフだ。史緒の目線からは一見分かりづらいタイプのシスコンである一臣だが、結婚相手の条件を「夫となる自分(一臣)よりも妹を大事にする女性」というのは、かなり重たい気がする。
とはいえ、父親を事故で失った後に母親は一臣を残して家を出てしまい、亡くなる寸前の祖母がようやく実の妹の存在を告げたのだ。作中では、この時の一臣の寂しく切ない心情が描かれている。
また、作品の冒頭と最後のほうには、一臣の後ろを史緒が「てくてくてくてく」と歩くシーンが描かれている。これは、互いの存在のおかげで救われた兄妹の見えない繋がりを表しているかのようで、涙腺がゆるむ。
ほかにも2006年に公開された上野樹里さん主演の実写映画『笑う大天使』の公開を記念して、20年後の3人を黒犬ダミアンの目線で語った「特別編」が、漫画誌『MELODY』(白泉社)に掲載されている。
20年ぶりに3人の姿を見た老犬ダミアンが「老けている!」と驚くのだが、『笑う大天使』の初掲載から37年が経った今、54歳となった彼女たちの現在を見てみたい気もする。