■総集編の枠組みを超えた神作
劇場版3部作は、映画作品としての評価も高い。実際に『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』は、12億9000万円という当時のアニメ映画としてはメガヒット級の興行収入を叩き出している。
そして「テレビ版を観たほうがいい」と一概に言い切れないのは、劇場版3部作は単なるダイジェスト版ではなく、総集編の域をはるかに超えた作品に仕上がっているためだ。
まず、劇場版ではストーリーの整合性に微調整が加えられている点が挙げられる。そのひとつが「ニュータイプ」という概念の扱いだ。ニュータイプは超人的な能力を持った特殊な人類という概念だが、テレビ版ではおもに物語の終盤で語られることが多かった。
それが劇場版では第1作目から「ニュータイプ」という言葉が登場し、ストーリー全体を通しての大きなテーマとして描かれている。テレビアニメの最終話までの流れから逆算して、主人公・アムロの才能の開花と彼を取り巻く状況がうまく整理され、とても観やすい作品に再構築されている点が素晴らしい。
さらに、登場キャラの描写やセリフの一部もテレビアニメ版から微妙な調整が行われている。たとえば、ララァ・スンに対するシャアの対応だ。テレビアニメでは、当初シャアはララァにも素顔を見せずに会話することが多かったが、劇場版では素顔を見せてリラックスした様子で会話する場面が多い。
そしてララァがアムロに倒された場面では、その違いが顕著である。ララァのエルメスが撃墜されたとき、テレビ版ではシャアは「うぁあああ!」と感情をむき出しにして怒る。だが劇場版では「ララァ、私を導いてくれ」と仮面越しに涙を流し、静かにララァの死を悲しんでいるのだ。こうしたシャアの心理描写は、劇場版のほうがうまく表現されているように感じた。
「劇場版3部作」が神作品といわれる背景には、テレビアニメ版から核となるストーリーを的確に抽出し、それを違和感なくつなぎ合わせる編集が施され、さらには新たな細かいニュアンスを加えて映画作品として完成させているからに他ならない。