1990年4月19日からフジテレビ系でレギュラー放送が開始し、現在も単発放送されているオムニバステレビドラマ『世にも奇妙な物語』。12月14日には『世にも奇妙な物語'24 冬の特別編』として、アンガールズの田中卓志さんが主演するエピソード「第1回田中家父親オーディション」やtimeleszの佐藤勝利さん主演の「City Lives」、尾上松也さん主演の「ああ祖国よ」などが放送される予定だ。
現在でも放送のたびにSNSでトレンド入りするほど強い人気を見せている同番組だが、中には大人、子ども問わずトラウマになったという人の絶えない強烈なエピソードも数多く存在する。特に「怪異よりも人間が怖い」というある種の特殊なジャンルの怖さは『世にも奇妙な物語』ならではのものだろう。
今回は、人間が結局一番怖いと思い知らされた、後味の悪かったトラウマエピソードを紹介したい。
■身内でも油断できない「おばあちゃん」
まずは、2001年の「秋の特別編」で放送された「おばあちゃん」。主人公の少女・美保(柊瑠美さん)が入院中のおばあちゃんのお見舞いに行くところから物語がスタートするエピソードだ。
美保が寝たきりのおばあちゃんと病室で2人きりになると、突然頭の中におばあちゃんの声が聞こえてくる。おばあちゃんは自身の死期を悟っており、最後に離れ離れになってしまった弟に会いたいこと、そのために美保と一日体を交換してほしいことを話した。
一度は断るものの、おばあちゃんの願いに折れ、1日だけ体を貸すことにした美保。体が入れ替わったおばあちゃんは若い体でお手玉などをして遊んだ後、弟(と言いつつ、実は当時の思い人だった)の元へ向かった。
思い人に今生の別れを告げ、美保の体のおばあちゃんは孫のために急いで病院に戻り、翌日、そのまま亡くなった。
一見すると家族のあたたかさをテーマとした感動の物語に見えるこの話には続きがある。30年後、大人になった美保の姿(片平なぎささん)が描かれるが、実はあのとき、おばあちゃんは孫に体を返していなかったことが明かされるのだ。
何もわからないまま死んでしまった少女の心を思うとなんともやるせない気持ちになる、大人の傲慢さが見え隠れすると同時に、片平さんのラストの独白演技が恐ろしい物語でもあった。とはいえ、おばあちゃんも体を返すために必死に病室に向かっていた様子から、始めから悪意があったわけではなく、最後に「やっぱり体を返したくない」と魔が差したのだろう。
■人の心は簡単に変えられる「23分間の奇跡」
続いては、1991年の「冬の特別編」にて放送された賀来千香子さん主演のエピソード「23分間の奇跡」。
これはジェームズ・クラベルによる短編小説が原作で、物語は午前9時に始まり、23分後に終わる。たった23分間での出来事を描いているのだが、この作品のメッセージ性の強さには、はじめはなかなか気づかないかもしれない。
物語は、小学校のクラスに突然知らない女教師が現れるところから始まる。彼女の「教え」の数々に初めは疑問と不審を抱き反発する生徒たちだったが、教師はその言葉をきちんと受け止めた様子を見せつつ、ついぞ暴力もなしに生徒たちの心をわずか23分間で完全に掌握し従わせてしまった。子どもたちが言葉だけで洗脳され、自身の考えが大きく変わってしまう過程が描かれているのだ。
もともと原作者はこの物語を、本来の意味も理解・咀嚼せずただ覚えるという「丸暗記」の教育に疑念を持ち執筆したのだという。また子どもたちの心理が、教職にあたるものの手によっていかに簡単に変わってしまうかという怖さもはらんでいる。
「23分間の奇跡」は、深い見方をすると、日常の中でも思考を放棄した状態の人の多さに気づかされ、当事者意識の希薄さを再認識できる秀逸な物語となっている。