藤田和日郎氏による『からくりサーカス』は、ゾナハ病と呼ばれる奇病で人類を滅亡させようとするフェイスレスと人類との戦いを描いた作品だ。10月2日、突如としてマンガ配信アプリ「サンデーうぇぶり」にて1日限定で全話無料読み放題になったことも、記憶に新しい。
本作には数多くのドラマがあり、人ならざる存在となってしまった「しろがね」の苦悩や感情を持たない自動人形(オートマータ)の葛藤などが描かれている。彼らが織りなす号泣の名シーンは、何年経っても色褪せない。
そこで今回は、『からくりサーカス』の数ある名場面の中から、特にファンから愛される「号泣シーン」をいくつか紹介していこう。
■フランシーヌ人形の初めての笑顔
自動人形のフランシーヌ人形は自分の存在意義を失いつつあった。彼女は、作り手である白金によって彼の最愛の女性・フランシーヌに似せて作られたのだが、笑えなかったために“所詮は人形”と捨てられてしまったのだ。
そんなフランシーヌ人形は、アンジェリーナたちと出会い産まれたばかりの女の子・エレオノールと触れ合うことで少しずつ変わっていく。
エレオノールの世話をする中で、フランシーヌ人形は人間の抱く感情を理解しつつあった。そんな中、エレオノールの体内にある「柔らかい石」を狙って、自動人形の群れが襲撃してくる。
何としてもエレオノールを守ろうとするフランシーヌ人形は、逃げ回った末に井戸へ転落。すると、柔らかい石が井戸の水を「生命の水(アクア・ウイタエ)」へと変えてしまった。
生命の水には何でも溶かす効果があったので、フランシーヌ人形は徐々に溶けていくことに……。しかしそんな状況で彼女は、泣き叫んでいるエレオノールを泣きやませたいという気持ちから「べろべろばあ」をしてみせる。それを見たエレオノールは無邪気な笑顔を見せ、それに心を動かされたフランシーヌ人形はついに心からの笑顔を浮かべるのだった……
これはずっと笑おうとしても笑えなかったフランシーヌ人形が初めて見せた笑顔だったのだが、彼女はそのまま溶けて消えてしまう。
ただの人形かもしれないが、最後は血の通った人間のように思えた。あまりにも切なくて儚い最期である。
■エレオノールの幸せを願ったギイの最期
フェイスレスとの最終戦で、大量の自動人形が主人公のひとり・加藤鳴海たちのもとへと送り込まれる。その数3000体と絶望的で、誰かが足止めをしなくてはならなくなる。
その役を真っ先に買って出たのがギイで、彼は鳴海たちを送り出すと、襲いかかる自動人形の大群を次々と倒し続けた。しかし、ギイの肉体はとっくに限界を迎えていて、万全の状態ではない……。
そのため3000体の自動人形を葬るだけの爆弾を仕込み、自爆する機会を狙っていた。ギイは最初から死ぬ気でいたのである。
爆弾を爆発させればすぐに片がつくが、ギリギリまで戦い続けて必死に粘ったギイ。その間にこれまでの出来事を思い返し、自分は最期にどんなセリフを残すべきかと考える……。
最終的に彼は、自分はエレオノールを嫁がせる父親のような存在だと気づく。彼は、鳴海がエレオノールにとってふさわしい男だと認めたからこそ、ふたりには幸せになってほしいと願っていた。
やがて左腕が折れて限界を迎えたギイは、そんなふたりを想いながら決断をする。「幸せにおなり……だ…」そう心の中で呟くと、自動人形を道連れに自爆をしたのだ。
自らの役目を果たしたギイは幸せそうな顔をしていたが、あまりにも悲しすぎる。エレオノールと鳴海が結ばれた姿を見守ってほしかった……と思わずにはいられない。