■司法制度の問題点を浮彫にしたSeason3の10話「ありふれた殺人」
時効という制度を扱っているのが、Season3の10話「ありふれた殺人」だ。物語は、ある男が自首してくるところから始まる。
とある女子高生が殺される事件が起き、犯人が捕まらないまま20年経ったある日、小宮山という男が自分が犯人だといって出頭してくる。しかし、すでに時効が成立しており、逮捕はもちろん、氏名の公表すらできない。すると、被害者の両親である老年の夫婦が、「犯人の名前を教えてほしい」とやってくるようになるのだ。
やがて小宮山が殺されてしまうと、その疑いが彼らに向いていく……。
時効成立後の犯人の情報を秘匿するという警察官としての責務と、被害者遺族の思いに応えたいという人としての感情の間で揺れ動く薫の姿には、やりきれない思いを感じてしまう。劇中に幾度も登場する「犯人を教えてください」という坪井夫婦のセリフが、見ているこちらの心にも重くのしかかってくるようだった。
いまでは殺人事件の時効が撤廃されたこともあり、時効をめぐるエピソード自体少なくなっている。そういう意味でも貴重な回である。
■薫の元教育係が悪徳警官だった…Season5の15話「裏切者」
薫にとってはつらすぎる結末が描かれるSeason5の15話「裏切者」。このエピソードは悪徳警官をめぐる社会派のエピソードで、鬱展開ともいえるバッドエンドとなっている。
ある日、主婦がモデルガンの改造銃で射殺されるという事件が発生する。特命係は容疑者をピックアップし、過去にその人物を送検した池波署の組織犯罪対策課を訪ねた。
そこには、薫とかかわりが深い北村課長がいた。かつての教育係だったこともあり、薫と右京は北村とともに事件を検証していく。しかし、その中で池波署の捜査費流用の疑いが出てきてしまう。徐々に真相に近づく特命係だったが、そんな状況下で薫が謎の集団に襲撃され、入院するほどの重傷を負ってしまうのだ。
このエピソードで衝撃的だったのは、北村が悪徳警官の一味だったことだ。薫を襲った集団も彼の部下たちだった。特命係が署の不正を暴こうとしていると気付き、なんとか阻止しようとした結果、襲撃につながってしまったのである。
薫と、彼の病室を訪れた北村の対話は印象的だ。幼い娘のため警察をやめるわけにはいかないと話す北村に、“被害者にも同じくらいの娘さんがいた”と涙ながらに訴えかける薫。それに対し、北村は“もうどうしていいかわからない”と苦しみを吐露する。北村もまた、警察という巨大な組織に従わざるを得なかった犠牲者だったのだ。
このエピソードでは、絶大な信頼を置いていた元上司を告発せざるを得ない薫の様子が痛々しい。最後は池波署が処分を受け物語は終了するものの、薫の心情を考えるとやりきれない気持ちになってしまった……。
『相棒』は社会派のテーマも扱う本格刑事ドラマだが、シリーズ初期では今以上にショッキングな内容も多かった。
中には後味の悪い回もあるが、そういったものほど視聴者の心に強い印象を残し、長い間語り継がれることになる。そんなエピソードの数々を見ると、長年続いている『相棒』シリーズの奥深さが分かるだろう。