日本を代表するロックスター、矢沢永吉さんは来年ソロデビュー50周年を迎える。2025年にはそれを記念したメモリアルツアーも開催される予定だ。
ロックミュージシャンとして広く知られる矢沢さんだが、過去には俳優としていくつかの作品に出演し活躍してきた。なかでも有名なのが、矢沢さんが高校教師役で登場した1994年のドラマ『アリよさらば』である。今回はこのドラマがどのようなものだったか、矢沢さんの演技とともに振り返ってみよう。
■連ドラ初主演の話題作、主題歌はもちろんYAZAWAが担当
矢沢さんが主演を務めた『アリよさらば』は、1994年4月よりTBS系列で放送された話題作だ。このドラマは矢沢さんが連続ドラマで初めて主演を務めた作品であり、彼のカリスマ性を存分に生かしたストーリーが話題となった。
矢沢さんが演じたのは、もともとは大学の生物研究所員の安部良太という男だ。ある日良太は恩師の依頼で私立高校の臨時職員となるのだが、そこで個性豊かな生徒たちと出会い、型破りなスタイルでぶつかっていく……という物語である。
高校教師が主役のドラマはそれまでにもあったが、熱く生徒に指導し、ともに涙を流すような熱血教師が描かれることが多かったように思う。しかし矢沢さんが演じた良太はひと味違った。少々頼りなく人間よりも昆虫を愛する不思議なキャラクターなのだ。
ドラマが進むにつれ、生徒の妊娠やいじめなど重たいテーマも取り上げられた。しかしそれを良太が見事に解決するわけではない。あくまで生徒に寄り添うだけで、生徒自らが解決していくスタンスだったのも面白かった。
そんな本作の主題歌を歌うのは、もちろん矢沢さんだ。オープニングは矢沢さん自身が作曲を手掛けた、ドラマと同名の楽曲『アリよさらば』。そしてエンディング曲も矢沢さんが作曲を手掛けた『いつの日か』が使われている。
『アリよさらば』は矢沢さんらしいエネルギッシュな歌声がドラマの雰囲気を盛り上げ、ドラマと音楽が一体となった作品として多くの視聴者を魅了した。
■突如始まるピアノ弾き語りやシャワーシーン
矢沢さんのロックミュージシャンとしてのカッコよさがさりげなく登場するのも本作の見どころであり、ニクい演出だった。
たとえば、第1話「初登校」にて。朝、なかなか起きられない良太にモーニングコールが掛かってくる。すると良太は電話機を風呂場まで運び、会話をしながら豪快にシャワーを浴びるのだ。矢沢さんのたくましい上半身が露わになったシーンに、当時の“YAZAWAファン”は歓喜したことだろう。
また良太は、悩むシーンにおいてなぜか音楽室で過ごすことが多い。同じく第1話の終盤、良太はピアノの弾き語りを披露している。
教師を始めたばかりのころ、良太は女性教師に対し“3カ月経ったらきれいさっぱりやめる”と宣言している。女性教師が教室を出たあと、突如流れるジャズの調べ……。それに合わせて良太はおもむろにピアノを弾き始め、エンディングテーマである『いつの日か』を歌い出すのだ。
通常のドラマであれば、なぜ主人公が急にピアノを弾いて歌うのか……と疑問に思ってしまうだろうが、そこはさすがロックミュージシャンの矢沢さんだ。ハスキーな声での熱唱がむしろ心地良く、そのまま自然にエンディングを迎えるのである。
このようなシーンは、矢沢さんが演じる教師像に“型にはまらない自由さ”を感じさせるものであり、視聴者に鮮烈な印象を残した。俳優としての矢沢さんを見られるだけでなく、ロックスターとしての魅力を随所に感じられる点が、このドラマの大きな魅力の一つであった。