『逆転あばれはっちゃく』のタイトルの由来
──酒井さんは東京放映内の選抜をパスしたんですよね?
酒井 だけど、主役の桜間長太郎(はっちゃく)役のオーディションにあっさり落ちて。「友だち役でも出たい?」って聞かれたので「いや、出たい、出たい、絶対出たい」と答えました。
実はその日の俺は、オーディション前日に妹と喧嘩して顔に傷があったんですよ。しかも、控え室で子役のやんちゃなヤツらがおって、冬だったので使い捨てカイロの投げ合いになり……カイロが破れて、中身の黒い粉末が飛び散って顔が真っ黒になったんです。そのタイミングで「酒井くん、来てください」って、友だち役の審査に呼ばれて。「顔を洗わせてください」と言ったんですが、「そのままで来て」ってなりまして。
──カイロの中身で真っ黒のまま審査員の前に出たのですね。
酒井 そしたら、審査員の人たちが「こんな子いた?」と驚いていて。「最初の主役オーディションのときからいました」、「ところで、キミはなんで血がついているの?」、「妹と喧嘩しまして」、「なんで、そんなに真っ黒なの?」、「カイロの投げ合いして破れました」。そんなやりとりをしているときに、「はっちゃく、おったわ」となったみたいで。
実は、主役のオーディションは該当者ナシで、先に友だち役を探そうとしたら、アホみたいなヤツが見つかった、という(笑)。ほかにはっちゃく役の有力候補者がいたのですが、その子を俺が逆転したから「逆転あばれはっちゃく」というタイトルになったんです。
──『逆転あばれはっちゃく』は、東野英心さんが演じていたお父さんがあまり怒らないなど、過去の作品とは違う作風でしたよね?
酒井 そうそう。放送されていた1985年は『ニュースステーション』が始まり、『8時だョ!全員集合』が終わりと、テレビ界が過渡期だった。『はっちゃく』シリーズも衰退期で、『逆転あばれはっちゃく』は最初から「10月から愛川欽也さんの番組が始まるので、放送期間は8か月です」と言われていました。つまり、俺で『はっちゃく』シリーズが終わることが決まっていたんですよ。
──早期終了は打ち切りではなく規定路線だったのですね。
酒井 『はっちゃく』が好きすぎて、自分の責任で終わったわけじゃないけど、とても残念でしたね。6代目、7代目と続いてほしかった。だから、その後、『百獣戦隊ガオレンジャー』(2001年)に出演するときも、『スーパー戦隊シリーズ』が落ち気味だったので、「自分たちの代でこのシリーズを終わらせたくない」という思いが強くありました。
よくよく考えてみると、純烈を作ったときに、特撮作品に出演したものの、その後のキャリアが伸び悩んでいる人たちに声をかけたのも、たぐりたぐれば『はっちゃく』があのとき終わったことと、どこかつながっているような気がします。