■機械人間になって生き続けると「心がなくなる」!?

 機械人間の体になれば、メンテナンスを続ける限り生き続けることができる。

 コミックス第4巻「二重惑星のラーラ」で登場する「完全機械化」という星は、機械化した人だけが住む星だ。この星には葬儀屋がなく、死ぬ人間が出始めるのは200〜300年が経ってからだという。生きるのに飽きた人が出ない限り人口も変わらず、事実もうこの星では200年間人口が一人も増えなければ減ってもいないのだ。

 そんな変わらない環境下で暮らし続けたためか、鉄郎とメーテルを珍しく見た機械人間たちは2人を襲って剝製にしようとしたり、銃で撃って体を取り換えたりしようとする。辛くも逃げ出した鉄郎はその後999号のなかで、「機械の体になると 人はみんなあんなふうになるのだろうか…?」「あれは もう人間じゃなく……怪物みたいな気がしたよ」とつぶやいている。

 永遠の命を手にすると人は何に対しても慣れてしまい、刺激や興味を失ってしまうのだろう。その結果、自然死を迎える人間に対して攻撃的になったり、その体を奪ったりしようとするのだ。“死なない体”は人の心を不安定にさせ、優しさをも失わせてしまうのかもしれない。

■機械化したらビジュアルも一緒、お金も必要

 体を機械化するということは、その見た目も自由に選べることになる。

 同じく「二重惑星のラーラ」に登場する機械人間たちは、みんな容姿端麗で美しい。鉄郎は「美男美女ばかりだ」と驚きつつ「おもしろくない所だ」とも言っている。

 外見を自由に作れることはメリットに思える一方、みんなが美しい外見を希望し、個性がなくなってしまうのも事実だ。なにより、同じような顔ばかりの世界で生きるのは奇妙で息苦しさを感じてしまいそうだ。

 また機械の体を手に入れるには、それなりにお金もかかる。コミックス第1巻「暗黒星メフィストの黒騎士」に登場する機械人間・黒騎士の体は、缶詰やブリキでできたみすぼらしい体だった。

 お金がなかったため安物を買ったり、部品を盗んだりしてできた成れの果ての姿だという。機械の体を手にするにはやはりお金が必要であり、コストを掛けないと理想の体を手に入れるのは難しいのだろう。

 そう考えると、機械化して永遠の命を手に入れ一見自由に見えても、ランニングコストのため“お金”に縛られ続け、本当の意味での自由は得られないのかもしれない。

 

 『銀河鉄道999』の物語が始まった当初、鉄郎は“絶対に機械の体を手に入れる!”と、強い意志を持っていた。しかし機械人間をはじめとした多くの出会いを繰り返すうちに、機械の体は本当に必要なのかと自問自答し、その答えは最後まで明確に出せていない。

 私たちが生きる世界でも、人工知能をはじめとした機械の体は開発が進められている。はたして、永遠の命を持つことは本当に幸せなことなのだろうか。作者の松本さんが作品を通して未来に投げかけてくれたこのテーマを、これからも考える必要があるだろう。

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