津田健次郎「もう別次元のかっこよさ、本当にリスペクトしています」大きな影響を受けた「伝説のアニメ作品」の画像
津田健次郎  写真/有坂政晴

 10月5日よりスタートしているアニメ『魔王様、リトライ!R』(TOKYO MXほか)で主人公を演じている声優の津田健次郎さん。近年は、二次元のみならず映画や舞台と、幅広く活動の場を広げている。そんな津田さんが、53歳にして進化し続ける背景に迫った。

 

――2021年には第15回声優アワードで主演男優賞を受賞したほか、現在はドラマでも引く手あまたの活躍を見せています。歳を重ねて、仕事の仕方などに変化はありますか?

津田 一番わかりやすく変わったのは、「人生は短い」ということを体感していることですね。人生の短さを体感していくことによって、「やりたいことをちゃんとやらなきゃダメだ」と、よりシンプルになっていったように思います。

 これまで、いろいろとテクニカルなことを試してきましたが、実はテクニカルなことよりも「ただ、そこに、ちゃんと立つ」ことが一番大事なんですよね。それと同時に、「ちゃんと立つ」ことの難しさをより知ることになりました。だから歳を重ねて、お芝居に対してよりシンプルに挑んでいる感じがします。

――「ちゃんと立つ」というのはどういうことでしょうか。

津田 どのジャンルにもこの言葉に変わる言葉があると思いますが、役者の世界だと「ちゃんと立つ」という言葉になるんですよね。たとえば劇作家で小説家のアントン・チェーホフが、『かもめ』という作品で、主人公である作家志望の青年に、こんなセリフを言わせているんです。「形式にとらわれず、魂から自由にあふれ出るままに書くということなんだ」と。

 それって、めちゃくちゃシンプルじゃないですか。大作家チェーホフが目指すところが、ただただ魂のままに書く……という。それが一番むずかしいことだとも思いますしね。そういった表現の世界に限らず、領域を越えた達人って、みんな同じことを言う気がします。プロ野球選手だったら「無心で打つ」とか。

――津田さん自身も年を重ねて、シンプルであることを意識するようになったんですね。

津田 若いころからそうしたいと思っていた部分はあるんですけど、より意識するようになったというか、深まったといいますか。シンプルなことが一番強くて深いんだな、と強く思うようになりました。

――いろいろな経験を経たからこそ、原点に戻ったということですね。

津田 そうですね。いろいろと試したり、作品に出させていただいたからですね。芝居に限らず、生きる上でもシンプルになっていくような気がします。

――出演作が増えるのと比例して、共演者の数も増えていると思います。これまで影響を受けた人はいますか?

津田 もちろん。現役バリバリでやっている先輩は、なにかしらの強みや武器を持っていらっしゃることが多くて。そういった先輩とご一緒させていただくことは、いつもとても大きな学びになっています。いまでも「ギャラをもらいながら勉強させてもらっている」という気になりますね。ただ、最近は僕が年長者になることも増えてきてしまいました。先輩とご一緒する機会がないのは、ちょっと残念ですね。

――若い人から学ぶことはありますか?

津田 新鮮に向かっている姿や、すごく緊張しているのを乗り越えて、もしかしたら「バカ野郎!」と怒られるような攻めた芝居をやろうとしている姿勢を見ると、グッときますね。そういう姿を見ると、「いまの自分はどうだろう?」と自分を顧みる機会になります。そういう姿勢は失敗のもとになることもありますが、ひとつひとつ大事にやろうという気概はおもしろいですよね。

――大人になった自分には、立つことができない境地だと。

津田 そうですね。でも、本来あるべき姿なんだろうなと思います。

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