2000年代の『週刊少年マガジン』(講談社)を支えた麻雀漫画『哲也ー雀聖と呼ばれた男ー』(原案:さいふうめい氏、漫画:星野泰視氏)。目にも止まらぬイカサマ技が火花を散らす玄人(バイニン)の戦いに、麻雀を知らずとも夢中になった人もいるだろう。
「敵のイカサマをどう破るか?」が闘牌の軸になることが多いが、なかにはいっさいの不正をせず運を信じて勝負する玄人もいる。今回は、運に頼りすぎていて常人には理解不能な彼らの「奇策」とも呼べる戦法を紹介しよう。
■わざと運を逃がして大逆転!? 近藤祥二の「全局国士無双狙い」
まずは、主人公・哲也の旧友、近藤祥二の戦い方からだ。麻雀における最強の役のひとつに「国士無双」があるが、近藤のスタイルはそれを全局で狙うものである。ちょっとでも麻雀を知っていれば「そんなバカな」と言いたくなるだろう。聞かされた哲也も「ありえない」と考えたほどだ。
だが、近藤の手にかかるとありえてしまう。序盤は無茶な打ち方が祟って振り込みをくり返すが、終盤で本当に国士無双をアガって逆転勝利を収めるのだ。異様な勝ち方に哲也も圧倒され、初戦は手も足も出なかった。
奇想天外な戦法の秘訣は「ワザと運を逃がす」こと。国士無双は、“クズ牌”と呼ばれる不必要な牌を集めて成立する役だ。そこで近藤は序盤にあえて振り込んで自分の運を悪くし、国士無双に必要なクズ牌が来やすくなるよう運勢を調整していたのである。
「そんなので国士無双がアガれれば苦労はしない!」そう叫びたいが、近藤は実際にできているのだから、もう何も言えない……。
■理屈のない大自然の“豪運”! 小龍の「全局緑一色狙い」
次も、全局役満狙いの豪快すぎる奇策を紹介しよう。哲也が放浪の旅のなかで出会った中国人・小龍(シャオロン)は、「緑一色(リュウイーソー)」だけを狙う玄人だ。
緑一色は一部の索子や発といった緑色の牌を揃える役で、非常に珍しい役満である。レア度でいえば、近藤の国士無双よりずっと高い。
だが、小龍は事もなげに緑一色を仕上げてしまう。哲也との初対戦では半信半疑の哲也に緑一色を直撃して完勝。2戦目、3戦目も緑一色をテンパイし続けて哲也と紙一重の勝負を繰り広げた。
しかし、なぜ彼は緑一色をアガれるのか? 小龍は「俺は緑の大平原に守られているから」と、語っている。
かつて小龍は軍の戦車に遭遇して死にかけるも、奇跡的に生還した。その際、半ばヤケで故郷の草原に寝転がっていたので、“自分は緑の大平原に守られた”、“だから緑色の牌が集まる”と信じている。そして本当に牌が集まる。ただそれだけの話なのだ。
ここまでくると、もはや戦法とかいう次元ではない。全局緑一色戦法は、小龍が持つ説明不能の“豪運”がなせる神業なのだ。